ビレーの空は、まだ薄暗い朝霧の中に染まっていた。ラーンはイシェの寝顔を見ながら、小さくため息をついた。昨日、テルヘルが持ち出した遺跡の地図は、広大な地下迷宮を描き、その奥には「古代王の墓」と記されていた。莫大な財宝が眠るという噂だ。
「大穴だな…」
ラーンの胸に、いつも通りの興奮と同時に、どこか不安な影が差した。テルヘルは今日も冷静に地図を広げ、遺跡の構造を分析していた。彼女の目は鋭く、まるで迷宮の奥底にある王の墓を見据えているようだった。
イシェは目を覚まし、静かに言った。「朝凪ぎの静けさだな。今日は気を引き締めていこう」
ラーンの心は少しだけ軽くなった。イシェの冷静さはいつも彼を支えてくれる。そして、テルヘルが目的のために利用するのではなく、ある程度信頼してくれていることも知っていた。
「よし、準備はいいか?」
テルヘルの声が響き渡り、三人はビレーの朝霧に包まれた街を後にした。彼らの足取りは軽やかで、希望に満ち溢れていた。遺跡への道は険しく、危険が潜んでいることはわかっている。だが、彼らは朝凪ぎのような静けさの中で、それぞれの夢に向かって歩き出す決意をしていた。