薄暗い空が徐々に明るさを増し始める頃、ビレーの街は活気がなかった。ラーンがいつものようにイシェを起こそうとすると、彼女は珍しく布団から出ようとしなかった。
「どうしたんだ、イシェ？今日は遺跡探索の日だろ？」
「うん、だけど…」
イシェはぼんやりとした目で外を眺めていた。「なんか落ち着かないんだ。いつもより空気が重い気がする」
ラーンの豪快な笑い声が響いた。「そんなこと言ってないで、早く準備しなきゃ！今日はテルヘルも来るんだよ！」
イシェは小さく頷き、布団から這い出した。
街を離れ、遺跡へと向かう道中、イシェはどこか不安な気持ちを引きずっていた。いつもならラーンの軽快な足取りに合わせ、自分も元気よく歩けるものだったのに、今日は体が重く感じられた。
遺跡の入り口に到着した時、テルヘルが既に待機していた。彼女はいつものように鋭い眼差しで二人を見下ろしている。
「今日は特別だ。この遺跡はかつてヴォルダン軍が占拠していた場所だ。貴重な情報や遺物がある可能性が高い」
テルヘルの言葉にラーンの目は輝き、イシェも少しだけ緊張感が和らぎ始めた。
しかし、遺跡の中に入ると、またもや異様な空気が彼女を包み込んだ。いつもならラーンが率先して進むのだが、今日は彼の足取りも重く、顔色が悪い。
「何かあったのか？」
イシェの問いかけに、ラーンは小さくうなずいた。「朝、起きたらこんな気分なんだ…何か嫌な予感がする」
その瞬間、遺跡の奥から不気味な音が響き始めた。まるで獣の咆哮のような音で、地面を震わせるほどだった。ラーンとイシェは互いの顔を見合わせ、戦々恐々の表情になった。
テルヘルは冷静に剣を抜き、「何かが近づいている。警戒しろ！」と叫んだ。