ビレーの薄暗い酒場で、ラーンが豪快に笑い声を上げた。イシェは眉間にしわを寄せながら、彼の肩を軽く叩いた。「また大穴の話か？ 本当にそんな宝が埋まっているなんて信じるのか？」
ラーンの目は輝き、「いつか必ず見つけるんだ！」と断言した。イシェはため息をつき、杯の中の酒を一口飲んだ。彼女の視線は、店の隅で静かに本を読んでいるテルヘルに向いていた。
「あの本は何だろう？」ラーンが尋ねると、イシェは首を振った。「知らない。でも、いつも同じ本を開いているみたいだ」と答えた。テルヘルは、まるでその世界に深く浸っているかのように、ページをめくる指の動きさえも静かで優雅だった。
「あの女は何を考えているんだろうな…」ラーンが呟くと、イシェは少しだけ彼を睨んだ。「お前には関係ないんじゃないのか？」と問いかける。ラーンは苦笑しながら、「まあ、そうだな」と答えた。
翌日、遺跡の入り口に立つ3人。テルヘルはいつものように冷静で、ラーンの興奮を落ち着かせようとするイシェとは対照的だった。
「今日の探索目標は、あの奥にある崩れた塔だ」テルヘルが地図を広げると、ラーンは目を輝かせた。「よし、行こうぜ！」と叫んで走り出した。イシェは彼を追いかけながら、「待てよ、ラーン！ちゃんと計画を立てろ！」と怒鳴った。
崩れた塔の内部は暗く、湿った空気が漂っていた。彼らは慎重に進み、崩れかけた石柱や朽ちた階段を避けて進んでいった。突然、ラーンの足がすくんで転倒した。「うわっ！」
イシェが駆け寄り、「大丈夫か？」と声をかけると、ラーンは顔を真っ青にして言った。「足首をひねった…動けない…」
イシェは慌ててラーンの足首を診た。すると、彼の顔色がさらに白くなった。「これは…ひどい。このままでは歩けない」
テルヘルは冷静に状況を判断し、「私がラーンを背負って運ぶ。イシェ、君は先へ進んで道を探せ」と指示した。イシェは頷き、暗闇の中を進んでいった。
テルヘルはラーンの重みに耐えながら、ゆっくりと階段を登っていく。彼女の心には、不安と焦燥感が渦巻いていた。
「あの本…一体何を書いてあるんだろう…」
彼女はふいに、テルヘルのいつも持ち歩いている古い本のことを思い出した。その表紙には、謎の記号が刻まれていた。イシェは一度だけ、その本を覗き見ようとしたことがあったが、テルヘルに止められた。
「あの本は私にとってとても大切なもの。だから、決して他の人にみせることはできない」
テルヘルはそう言った時、彼女の瞳には強い意志が宿っていた。
イシェは、ラーンのことを心配する気持ちと同時に、テルヘルの秘密に心を奪われるように感じていた。そして、その本の中に隠された真実を知りたいという欲求が、彼女を駆り立てていくのを感じた。