ビレーの酒場「錆びた剣」の薄暗い隅で、イシェがテルヘルから渡された封筒を手にした。ラーンはいつものように大杯の酒を傾け、「また何か面倒な依頼か?」と笑い飛ばす。
イシェは封筒を慎重に開けて、中に添えられた羊皮紙を unfolded。そこには、ヴォルダン領内の遺跡調査に関する詳細が記されていた。依頼主はテルヘルだが、依頼の内容はヴォルダンとの取引を匂わせるものだった。
「これは...」イシェは言葉に詰まった。ラーンの無邪気な笑顔を見て、彼女はためらいがちに封筒を彼へと差し出した。「見てごらんよ」。
ラーンは眉間に皺を寄せながら羊皮紙を読み進めた。彼の顔色は徐々に青ざめていく。ヴォルダンとの取引、それは彼にとって許されることではない。イシェはラーンの視線を感じながら、自分の胸の奥底から湧き上がる不安を抑えられなかった。
「これは...絶対にダメだ」
ラーンの言葉は力なく、しかし決意に満ちていた。イシェも深く頷く。テルヘルは目的のためには手段を選ばないタイプだと知っていた。だが、ヴォルダンとの取引は彼らを破滅させる可能性もあった。
「この依頼は受けられない」
イシェは自分の言葉に確信がないことに気づいた。しかし、ラーンの決意は揺るぎなかった。彼は立ち上がり、テルヘルがいるテーブルへ向かった。イシェも重い足取りで彼の後を続いた。
酒場の喧騒が遠くになり、三人の間には沈黙だけが支配していた。彼らの前に広がる未来は不確実だった。だが、彼らは今、一つの決断を下す必要があった。