ラーンの粗雑な剣の扱いにイシェは眉をひそめた。「もう少し丁寧に扱うべきだ。あの剣は貴重な遺物かもしれないのに」
「うるせーな、イシェ。そんな堅苦しいこと言ってても何も見つからないぞ」ラーンがそう言うと、埃っぽい遺跡の奥深くへと足を踏み入れた。テルヘルは彼らを尻目に、壁に刻まれた古代文字を指でなぞった。「この記号…見たことがあるような…」
彼らはヴォルダンとの国境に近い辺境の村ビレーから、遺跡探しの仕事を引き受けていた。今回は特に危険な場所だと言われたが、報酬が高額だったため、ラーンは飛びついたのだ。イシェはいつも通り慎重に周囲を警戒しながら進んだ。テルヘルは常に冷静さを保ちながら、彼らと共に遺跡の奥へと進んでいく。
「ここか?」ラーンの声が響き渡った。巨大な石棺が置かれている部屋だ。石棺の上には複雑な模様が刻まれており、その中心には輝く宝石が嵌められていた。
「これは…」イシェは息を呑んだ。「古代文明の王の墓かもしれない」
「宝だ!」ラーンの目が輝いた。興奮して石棺に近づこうとする彼をイシェは制止した。「待て!あの記号…ヴォルダンが禁じた魔術と関連している可能性があるぞ」
その時、石棺から黒い煙が立ち上り始めた。煙と共に、不気味な声が響き渡った。「お前たちは誰だ?」
ラーンは剣を抜き、イシェも準備を整えた。テルヘルは冷静に状況を観察しながら、小さなメモ帳に何か書き留めていた。「魔術の記述…ヴォルダンが隠していたものか…」
煙の中から、巨大な影が現れた。それは、まるで亡霊のような姿で、鋭い牙と爪を持ち、赤い目を輝かせていた。ラーンの剣が影に突き刺さっても、その影は傷一つつかない。「無駄だ!」影の声は不気味に響き渡った。「この力は、お前たちが理解できるものではない」
イシェは冷静さを保ちながら、影の動きを分析した。「弱点を探さなければ…」その時、テルヘルが叫んだ。「あの記号!石棺の模様と組み合わせて…!」
テルヘルはメモ帳からページを破り取り、石棺に貼った。すると、石棺に刻まれた模様が輝き始め、影は激しく怯えた様子を見せた。「何だこれは…!?」
ラーンの剣が影の体幹めがけて突き刺さり、影は悲鳴と共に消滅した。イシェは息を切らしながら、テルヘルの方を見た。「あの記号…ヴォルダンが隠していた知識だったのか」
テルヘルはメモ帳を閉じ、静かに言った。「この遺跡から得られる情報は、ヴォルダンへの復讐に役立つかもしれない…」そして、彼女は書き留めた。