「おい、イシェ、またあの本か?」ラーンがイシェの傍らで寝そべるように座り込んだ。イシェは薄暗い tavern の隅で、油まみれのランプの光に照らされながら、古びた本のページをめくっていた。
「何?暇つぶしだ」イシェは答えることなく、読み進めた。ラーンの視線を感じて顔を上げると、「また文句か?」と鋭い視線を向けた。
「いや、別に」ラーンは手を挙げた。「ただ、そんな古い本に何があるんだって話だよ。遺跡の地図とか、遺物の説明ならわかるけど…」
イシェはため息をつき、本を閉じた。「この本には書かれているんだよ、ラーン。ヴォルダンの歴史、その文化、そして…彼らがなぜ滅びたのか」
「そんなもん知ったところでどうするんだ?」ラーンは眉間に皺を寄せた。「俺たちは遺跡から財宝を発掘するんだ。歴史とか関係ないだろ?」
イシェは静かに言った。「歴史を知らないと、未来は作れない」
ラーンの視線はテルヘルに向き、彼女は酒を傾けながら、遠くを見つめていた。彼女の顔にはいつも深い影が落とされ、過去に何かがあったことを伺わせる。
「お前はヴォルダンについて何を知っているんだ?」ラーンは尋ねた。「あの本には?」
テルヘルはゆっくりと顔を上げ、ラーンの視線にしっかりと向き合った。「書かれていることだけではない」と彼女は言った。「ヴォルダンは滅びたと言われているが、その真実を知っている者は少ない。そして、その真実を握る鍵は、遺跡に眠っている」
ラーンの心はざわめき始めた。イシェの言葉、テルヘルの視線、そして古い本のページに記された文字…すべてが彼の中に何かを呼び覚ますものがあった。
「俺たちは一体何を探しているんだ?」ラーンは呟いた。
イシェは静かに言った。「書かれているものを見つけ出すために」