「よし、今回はあの洞窟だ。噂によると奥に大きな部屋があるらしいぞ」ラーンが目を輝かせ、地図を広げる。イシェは眉間に皺を寄せながら地図を睨む。「また噂話か? そんな安易な期待で財宝が見つかると思うなよ」
「そう言っても、いつか大穴を見つけるんだろ?」ラーンの言葉にイシェはため息をついた。「いつまでも夢を見るな。現実的に考えて、あの洞窟は危険すぎるぞ。過去の記録によると、そこには強力な魔物が棲んでいると…」
その時、テルヘルが口を開いた。「そんな情報も必要ない。目的達成のためならリスクは覚悟の上だ」彼女の言葉にラーンは興奮気味に頷き、イシェは諦めたように肩を落とした。
洞窟の入り口は暗く、湿った臭いが漂っていた。ラーンの持つランプの火が踊る影が壁に不気味に映る。進むにつれ、空気は重くなり、不吉な予感がした。
「ここは…何か違うぞ…」イシェが不安そうに呟くと、突然地面が激しく揺れた。壁から石が崩れ落ち、ラーンは咄嗟にイシェを庇った。「何だこれは!」
揺れは収まり、沈黙が訪れる。その時、洞窟の奥深くから、不気味な笑い声が響き渡った。「ようこそ、愚かな者たち。この地には汝たちの命を奪うものしか存在しない」
声の主は漆黒の影に包まれた巨大な怪物だった。その目は血のように赤く燃え盛る、牙は鋭く、爪は鋼鉄よりも硬い。まさに暴虐そのものであった。ラーンは剣を抜こうとするが、恐怖で体が震える。イシェは冷静さを保ち、テルヘルに視線を向けると、彼女はすでに剣を構えていた。
「準備はいいか?」テルヘルの低い声が響き渡る。「この怪物は我々が倒さなければ、この国は滅びるだろう」