ビレーの酒場に響くラーンの豪快な笑い声。イシェは苦笑いを浮かべながら、彼の背中に手を当てて引きずり戻した。 ラーンが目を輝かせて話しているのは、最近見つけた遺跡の詳細だ。いつも通り誇張が入り混じっているが、イシェの経験則では、今回は少し違う気もする。
「あの石碑には、古代文明の暗号が刻まれていたんだ!解読できれば、とんでもない財宝の場所がわかるって!」
ラーンの興奮を冷ますように、イシェは冷静に言った。「またか、ラーン。そんな夢物語ばかり見ているから、なかなか大穴にたどり着けないんだよ」
その時、扉が開き、影のある女性が入ってきた。テルヘルだ。彼女は黒曜石のように黒い瞳で、ラーンとイシェをじっと見下ろす。
「準備はいいか?遺跡の調査が始まる」
テルヘルの言葉にはいつもよりも鋭い冷たさが感じられた。イシェは彼女の顔色から何かを感じ取った。
「何かあったんですか?」
イシェが尋ねると、テルヘルは小さく頷いた。「ヴォルダンからの情報が入った。彼らは我々の動きを追っているようだ。遺跡の調査は急務だ」
ラーンの顔色が曇る。ヴォルダンとの関係について、テルヘルは詳しく話してくれることはなかった。しかし、イシェは彼女の言葉から、深い憎悪と暗黒に覆われた過去を感じ取っていた。
「よし、わかった!あの遺跡には必ず何かがあるはずだ!」
ラーンが立ち上がり、剣を手に取った。イシェは彼を見つめ、深くため息をついた。テルヘルの目的と、ヴォルダンの影。そして、ラーンが追い求める夢。三者の運命は、暗黒に包まれた遺跡の奥底へとつながっていく。