ビレーの夜空はいつもより暗く、重苦しい空気に包まれていた。ラーンが酒をグイッと飲み干す音が、静かな宿屋で不自然に響く。「この街、なんか悪い予感しかしないよな」。ラーンの言葉にイシェは小さく頷いた。テルヘルは窓の外をじっと見つめていた。ヴォルダンとの国境では緊張が高まっているという噂を耳にしたばかりだった。
翌朝、彼らはいつものように遺跡へと向かった。日差しは強いが、空気は冷たかった。いつもならラーンの陽気な声で賑わう道も、今日はどこか沈黙していた。遺跡の入り口に立つと、ラーンは不吉な予感を拭い去ろうと、いつものように豪語した。「今日は必ず大穴が見つかる!俺たちの大金持ちへの第一歩だ!」しかし、イシェは彼の表情に不安を感じていた。
遺跡の中はいつもよりひっそりとしており、埃が舞い上がるたびに不気味な影が踊った。いつもならラーンが先頭を切って進むのだが、今日はなぜかイシェが前に出た。テルヘルは背後から鋭い視線を送っていた。「何か変だな」。イシェは小声で呟いた。
奥深く進むにつれて、空気がさらに重くなり、息苦しくなった。すると、突然床が崩れ、ラーンが深い穴に落ちてしまった。イシェとテルヘルが駆け寄ると、ラーンの顔は青ざめていた。「転んだだけだ。大丈夫」。ラーンの声は震えていた。
その時、天井から何かが落下してきた。それは巨大な石板で、イシェを直撃した。イシェは意識を失い、床に倒れ込んだ。テルヘルは驚愕の表情で石板を見つめていた。「これは…」。彼女はゆっくりと口を開き、低い声で呟いた。「暗雲が…」
ラーンは立ち上がろうとしたが、足がすくんだ。目の前には深い闇が広がっていた。そして、その闇から何かが彼に向かって迫ってくるのを感じた。