ラーンが遺跡の入り口で深く息を吸った。埃っぽい空気が喉を刺すように冷たかった。「今回は絶対何かあるって気がするぜ、イシェ！」
イシェは眉間にしわを寄せながら、ラーンの背後から彼の手を掴んだ。「またそんなこと言ってる。大穴が見つかるのは夢物語よ。現実を見なさい。」
「現実？現実だもんね、俺たちには何もないんだから」ラーンは苦笑しながら言った。目の前の遺跡は、かつて栄華を極めた文明の痕跡を残す朽ち果てた石造りの建造物だった。だが、今はただの骸骨のように荒れ果てており、風化で崩れ落ちそうな様子だった。
「あいつは本当に大穴を知ってるのかな？」イシェはテルヘルを疑うように呟いた。
テルヘルはヴォルダンからの復讐を誓う謎の女性だ。彼女は遺跡探索の知識と豊富な資金を提供する代わりに、発見した遺物の独占を要求し、その冷酷な表情と鋭い眼光はラーンとイシェを畏怖させた。
「大穴を見つけたら、俺たちに報酬もくれるって言ってたよな」ラーンの顔に少しだけ希望が灯った。「それでビレーから出て、もっと広い世界を見るんだ！」
イシェはため息をついた。「いつまでそんなことを言うんだよ？あの女が本当に信頼できるのかしら？」
その時だった。背後から冷たい風が吹き付け、不気味な影が二人を包み込んだ。ラーンとイシェは振り返ると、そこにテルヘルが立っていた。彼女の顔には、これまで見たことのない狂気のような光が宿っていた。
「遅かったわ」テルヘルは低い声で言った。「準備はいいでしょう？今夜は、この遺跡に眠る真の宝を手に入れる夜よ。」
イシェはラーンの腕を掴んで言った。「何かおかしい…逃げよう！」
だが、その時、テルヘルの背後から何者かが現れた。黒いマントを身にまとい、顔は影に隠されている。その人物が手の中に持っていたのは、鋭利な短剣だった。
「ターゲットは彼女だ」
男は一言だけ呟き、テルヘルめがけて短剣を突き立てた。だが、テルヘルは素早く身をかわし、短剣を掴んだ。そして、男の目をじっと見つめた。
「お前…ヴォルダンの者か？」
男は何も言わずに、再び攻撃を仕掛けてきた。激しい攻防が続く中、イシェはラーンに叫んだ。「逃げるぞ！」
二人は遺跡の奥深くへと走り込んだ。後ろではテルヘルと男の声が交錯し、激しい戦いが繰り広げられていた。