ビレーの酒場に響く騒音の中に、ラーンはイシェの眉間に刻まれた皺を見てため息をついた。
「またあの顔か。一体何があったんだ?」
イシェは小さくため息を吐きながら、テーブルに置かれた粗末な地図を指さした。「テルヘルがまた難題を突きつけてきたんだ。今度はヴォルダン領の遺跡らしい。危険度が桁違いだって。」
ラーンの顔色が一瞬曇った。「ヴォルダンって…あの大国か?」
「ああ。あの辺りは魔物も凶暴だし、ヴォルダンの兵士がうろついている可能性もある。テルヘルは何か手に入れたいものがあるみたいだが…」
イシェは言葉を濁した。ラーンはテルヘルの目的を知っていた。ヴォルダンに全てを奪われた過去。復讐のため、彼女はあらゆる手段を使う。
「でも、報酬がいいんだろ?あの遺跡には何か珍しい遺物があるらしいし」とラーンは、いつものように楽観的な口調で言った。しかし、イシェは彼の目をじっと見つめた。
「ラーン、今回は違う。テルヘルが持ち出した情報…それはただの地図じゃない。」
イシェは地図に指を落とすと、小さく呟いた。「この記号…これは暗号だ。ヴォルダンが使用していたものと同じ…」
ラーンの顔色が真っ白になった。彼は暗号の意味を理解した。それは、単なる遺跡探索ではなく、ヴォルダン内部の秘密に触れる危険な任務だったのだ。