ラーンの豪快な笑い声がビレーの夜空に響き渡った。イシェは眉間にしわを寄せながら、ラーンが持ち帰る遺跡から掘り出した石ころを眺めていた。
「またかよ、ラーン。これでも大穴の鍵になるって?もういい加減諦めろよ。」
イシェの言葉にラーンは満面の笑みで答えた。
「いやいや、イシェ。この石ころ、実は古代ヴォルダン人の記号なんだぞ!きっと何かの秘密を解く鍵になってるはずだ!」
イシェはため息をつきながら、視線を暖炉に向けた。炎がゆらめき、部屋の壁に奇妙な影を落とす。ラーンの無茶な夢話に付き合っているうちに、いつしかイシェ自身も古代遺跡への憧憬を抱くようになっていた。
「それに、テルヘルさんが高額の日当を払ってくれるんだから、文句言う筋合いはないだろう?」
ラーンはそう言って、石ころをポケットにしまい込んだ。
テルヘルは今日もビレーの宿屋に姿を見せなかったが、その存在感は常に3人の影を落とすように感じられた。ヴォルダンへの復讐を果たすために、彼女はどんな手段もいとわないだろう。イシェはそんなテルヘルの言葉を思い出し、不安な気持ちに襲われた。
「あの日、テルヘルさんがビレーに来た時、暖炉の火が急に消えたのを覚えているか?」
ラーンが突然切り出した言葉に、イシェは驚いて顔を上げた。
「ああ、そうだったな。あの時は寒かったな。」
「あれは、何か予兆じゃないのか?テルヘルさんの目的が僕たちを巻き込んだ何か恐ろしいものなのかもしれない。」
イシェはラーンの言葉を深く心に刻んだ。暖炉の火が再び燃え上がり、部屋を温かく照らす。しかし、イシェの心は冷たかった。