冷たい風がビレーの街を吹き抜けるようになった。空には、冬の足音が忍び寄るように、灰色がかった雲が広がっていた。ラーンは肩をすくめながら、イシェとテルヘルが待つ酒場へと向かった。
「今日は寒いな」
ラーンの言葉に、イシェは小さく頷いた。彼女は薄手のローブを体に巻きつけ、寒さに震えていた。
「早く遺跡に行きたいわ」
テルヘルがテーブルに置かれた酒のジョッキを掴んだ。「仕事が終われば、温かいスープを一杯飲もう」
ラーンは目を輝かせた。「ああ、そうだ!あの新しい宿屋でね。温かい肉汁たっぷりのシチューがあるって聞いたんだ!」
イシェは苦笑した。「いつも食べ物を考えているのね」
テルヘルは、ラーンの無邪気さに少しだけ羨ましさを感じた。彼女は自分の復讐心を胸に秘め、常に冷静さを保っていた。だが、ラーンたちと一緒に過ごす日々の中で、少しずつ心の氷が溶けていくような感覚を覚えることもあった。
「今日は、あの遺跡に行くんだろ?」イシェは地図を広げて言った。「ヴォルダンとの国境に近い場所だ」
ラーンの表情が曇った。「ああ、あの遺跡か…」
テルヘルはラーンの様子を鋭い目で見ていた。「何か問題でも?」
ラーンはためらいがちに言った。「あの遺跡…なんか不気味な感じがするんだ。地元の人たちは近づかないようにしているし…」
イシェは「そんな噂は聞いたことがないわ」と言ったが、少し不安げな顔をしていた。
晩秋の風が窓を叩きつける音が、まるで警告のように響いた。三人は互いの顔を見合わせた。遺跡への道は険しく、危険な予感が漂っていた。