ラーンの大きな斧が、埃を巻き上げながら遺跡の壁を叩き割った。石塵が舞う中、イシェは咳払いしながら懐中時計を覗き込んだ。「あの時と同じように、時間通りに動けばいいんだ」と呟いた。
「おいおい、イシェ、そんなこと言っちゃダメだろ！俺たちには時間は無限にあるぞ！」ラーンはそう言って、石の破片を片付け始めた。
イシェは苦笑した。「そうはいかないわよ、ラーン。あの遺跡で時間を無駄にしたからこそ、私たちは今こんな窮地に立たされているのよ」
テルヘルが鋭い視線で二人を見据えていた。「時間はお金のようだ。無駄にすれば取り戻せない。今回は成功させなければ、私達の計画は遅延する。そして、ヴォルダンへの復讐も遠のく」
彼女の言葉は重く、ラーンとイシェの表情を曇らせた。彼らはテルヘルと共に遺跡探索をすることで、ヴォルダンの打倒に繋がる情報や財宝を得ることを約束していた。しかし、過去に失敗したことで、テルヘルの信頼を失いかけていると感じていた。
「よし、準備はいいぞ！」ラーンの声が響き渡った。彼は巨大な斧を肩に担ぎ、遺跡の奥へと進んでいった。イシェとテルヘルも後を追う。
暗くて湿った通路を進んでいくと、壁には奇妙な模様が刻まれていた。イシェは懐中時計を手に取り、その模様と照らし合わせてみた。「これは…時間記号だ」と彼女はつぶやいた。
「時間記号？」ラーンが眉をひそめた。「一体何だって言ってるんだ？」
イシェは説明を始めた。「この遺跡は、時間を操る力を持つ古代文明の遺産らしい。そして、この記号は、その力を解き放つ鍵になる可能性がある」
テルヘルは興味深そうに壁の模様を見つめていた。「時間…か。もし、あの日あの時を巻き戻せるなら…」彼女は呟いた。しかし、すぐに言葉を飲み込んだ。過去を変えることはできない。彼女はそう自分に言い聞かせた。
彼らは深く遺跡に進んでいくにつれて、時間の流れが distort し始めていることに気づく。時計の針が不安定に動き、時空が歪んで見える瞬間もあった。
「これは…！」イシェは声を張り上げた。「この遺跡は、時間を操るだけでなく、その力を利用して別の場所に繋がる扉を開くことができるかもしれない」
ラーンは興奮した表情で言った。「つまり、大穴に繋がってるってことか！？ついに俺たちの夢が叶うぞ！」
テルヘルは冷静さを保ちながら言った。「安易に喜ぶな。この遺跡は危険だ。そして、時間というものは、一度触れてしまうと、制御不能になる可能性がある」
彼女の警告にも関わらず、ラーンは遺跡の奥深くへと進んでいった。イシェも彼を追いかけ、テルヘルは二人をじっと見つめていた。時計の針が刻む時間は、彼らの運命を大きく変えようとしていた。