ラーンがいつものように遺跡の入り口で大きなあくびを漏らすと、イシェは眉間に皺を寄せた。「また昼寝か? テルヘルが来たら怒るぞ」。「大丈夫、まだ時間あるし。それに、この暑さじゃ眠くなるのも仕方ないだろ」。ラーンの言葉に反論しようとしたイシェの口を、テルヘルが鋭い声で遮った。「準備はいいな。今日こそ何か収穫があるはずだ」。その目は冷たく、どこか不穏な光を放っていた。
遺跡内部は薄暗く、湿り気が漂っていた。ラーンの足音だけが、静寂に響き渡る。イシェは細心の注意を払って周囲を確認しながら、テルヘルに続く。彼女はいつも通り、目的の遺物を探し出すことに集中していた。一方、ラーンは飽きっぽい性格からか、すぐに気を散らしてしまう。「おい、イシェ! あれ見て!」と、ラーンの指さす方向を見ると、そこには色とりどりの宝石が埋め込まれた小さな宝箱があった。
「わっ、これはすごいぞ! これで大金持ちになれるかも!」ラーンは大はしゃぎで宝箱に飛びつくが、イシェは冷静さを失わずに警告した。「待て! まず安全を確認しろ」。しかし、ラーンの熱意は冷めなかった。「そんなことより、早く開けて見ろよ!」と、イシェを突き飛ばして宝箱を開けようとした瞬間、床から毒ガスが噴き出した。
イシェは咄嗟にラーンを引き戻し、二人はなんとか逃げ延びたが、テルヘルはすでに姿を消していた。「テルヘル!」イシェが叫ぶが、返事はない。
しばらくの間、二人は遺跡の中で立ち尽くした。ラーンの無謀さが招いたこの事態に、イシェは怒りと失望でいっぱいだった。だが、その時、ラーンが小さくあくびを漏らしたことに気がついた。「おい、お前また昼寝か?」とイシェが言うと、ラーンは苦笑しながら言った。「いや、違う。ちょっと疲れたんだ」。
イシェはラーンの顔色を見て、彼が本気で眠気に襲われていることに気づいた。そして、テルヘルの冷たい視線を感じた。それは、まるでラーンの無謀さを責めているようだった。イシェは深くため息をつき、ラーンに言った。「よし、今日は帰るぞ。もう遺跡はいい」。ラーンの顔色が良くなるのを確認してから、二人は遺跡を後にした。
夕暮れのビレーの街角で、イシェはラーンに言った。「今日の件は反省しろよ。テルヘルを怒らせたら大変なことになるぞ」。ラーンはうつむき加減にうなずいた。しかし、イシェの目には、どこか安心感があった。ラーンの無謀さは、確かに危険だが、彼の純粋な心と仲間への情は本物だった。そして、イシェは彼を信じて、これからも共に遺跡を探検していくつもりだった。