ビレーの朝はいつもより早く訪れた。まだ薄暗い空に、遠方から低い音が響き渡る。春の始まりを告げる「春雷」だ。ラーンはイシェの寝顔を見ながら、その音を聞きながら、今日も遺跡へ行くんだと呟いた。
イシェはまだ眠そうに目を擦った。「またあの遺跡か？ 昨日も結局何も見つからなかったじゃないか。」
「いや、昨日は悪くない場所だったぞ！あれだけ広かったら、何かあるはずだ」ラーンはそう言いながらも、少し自信なさげだった。
テルヘルはすでに準備を整えていた。「今日は私の指示に従ってください。あの遺跡には罠がある可能性が高い。慎重に、そして速やかに。」
彼女の言葉はいつも冷酷だが、その鋭い洞察力と行動力はラーンとイシェにとって頼りになるものだった。
遺跡の入り口は、まるで獣の口のように開いていた。内部は薄暗く、湿った空気と土の臭いが漂う。ラーンの手は剣に自然と伸びていた。「準備はいいか？」彼の声はいつもより少し低い。イシェは頷き、テルヘルは小さく息を吐いた。
彼らは慎重に進んだ。足音だけが響く静寂の中で、時折「春雷」が遠くで轟き、緊張感を高める。突然、床の一部が崩れ落ち、ラーンが深みへと転落した。「ラーン！」イシェとテルヘルは駆け寄った。だが、そこは深い落とし穴だった。ラーンの姿は見えない。
「ラーン！大丈夫か？」イシェの声が穴の中に響き渡る。だが返事はなかった。テルヘルは冷静に状況を判断し、近くの石板を引き抜いてロープを作った。「降りていく」と彼女は言った。イシェが頷き、二人はロープを掴んで慎重に穴の中へと降りていった。
底にはラーンが倒れたままだった。幸い怪我は見られなかった。だが、彼の手には何か光るものがあった。それは小さな宝石。遺跡の奥深くで眠っていた「春雷」のような輝きを放つ宝石だった。