ビレーの街は春の訪れを感じさせる陽気に包まれていた。日差しが暖かく、雪解け水が小川のせせらぎとなって街中に流れる。ラーンとイシェはいつものように、朝のうちに荷物をまとめ、遺跡探索の準備を始めた。
「今日はどこに行くんだい?」
イシェが尋ねると、ラーンはニヤリと笑った。
「よし、今回はあの東の谷にある遺跡だ。春分の日だというのにまだ誰も行ってないらしいぞ!大穴が見つかるかもな!」
イシェはため息をついた。「いつも大穴だと…でも、春分の日なら日照時間が長くて探索しやすいのは確かだな」
そこにテルヘルが合流した。彼女はいつものように黒いマントをまとっていたが、今日は少しだけ華やかな雰囲気を感じさせた。
「準備はいいか?今日こそヴォルダンに近づける日が来るかもしれない。」
彼女の言葉はいつもより力強かった。ラーンとイシェは互いに顔を見合わせた。テルヘルの目的を知りながらも、彼女に付き従う理由はあった。それは、彼女が持つ圧倒的な意志と、どこか哀愁漂う瞳の中に宿る深い悲しみだった。
谷へと続く道は、春分の日差しを浴びて輝きを増していた。ラーンの背中には大剣がしっかりと固定され、イシェは小さな地図を広げて進路を確認している。テルヘルは先頭を歩き、時折振り返って二人の様子を確かめる。
遺跡の入り口は崩れかけていた。石畳には春草が生え茂り、まるで古代の文明の痕跡を隠すように緑が繁っていた。
「ここだ。」
テルヘルが静かに言った。遺跡内部は薄暗く、空気が冷たかった。ラーンの心臓は高鳴っていた。大穴が見つかるかもしれないという期待と、同時に危険を感じていた。イシェはいつも通りの冷静さを保ちつつも、彼の緊張を察知し、少しだけラーンの近くに寄った。
「気をつけろよ、ラーン。」
イシェのささやきがラーンの耳に届いた。彼は深く息を吸い込み、大きく頷いた。
遺跡内部は複雑な構造になっており、迷路のように続く通路には、時折奇妙な模様が刻まれていた。彼らは慎重に足取りを運び、周囲を警戒しながら進んでいった。
やがて、奥へと進むにつれて、空気中に金属の匂いが漂ってきた。それは何とも言えない不気味な感覚を抱かせた。
「何かあるぞ…」
ラーンは剣を握りしめ、イシェとテルヘルに合図を送った。三人は互いに意思を伝え合うようにゆっくりと前進した。
そして、ついに目の前に広がる光景を見た時、彼らの表情が硬直した。そこには巨大な祭壇があり、その上に奇妙な石像が鎮座していた。石像はまるで生き物のように、鋭い眼光で三人を見下ろしているかのようだった。
「これは…」
イシェの声が震えた。ラーンも言葉を失っていた。テルヘルは石像に近づき、ゆっくりと手を伸ばした。
「ついに…見つけた。」
彼女の瞳には狂気を宿したような光が輝いていた。