ビレーの夕暮れは、空一面を赤く染め上げていた。ラーンはイシェと肩を並べて町を見下ろしていた。
「あの塔の上から見えるかな？ あの赤い屋根の家まで」
イシェは小さくため息をつきながら言った。「またそんなこと言ってる。いつか本当に飛び降りるんじゃないかと心配になるよ」
ラーンの顔には笑みが広がった。「大丈夫だ、イシェ。俺はまだ死なない。だって、大穴を掘り当てたらさ、お前も俺ももうこんな場所で暮らす必要なくなるんだろ？」
イシェは何も言わずに視線を下げた。ラーンはいつもそうだった。楽観的な言葉の裏には、自分自身を納得させたい気持ちがあるように見えた。
「あいつは本当に来るのかね？」ラーンの声は少し不安げだった。
イシェは小さく頷いた。「テルヘルは約束を守る人だ。言った通りに明日、ビレーにくる」
ラーンは再び視線を街に向けた。「あの遺跡…俺たちが探してるのは本当にそこに眠ってるのか？ 」
イシェはラーンの目をじっと見つめた。「誰にも分からないよ。でも、テルヘルがそう言ってるなら、きっと何かあるはずだ」
二人は沈黙に包まれた。夕暮れのビレーの街並みは、まるで昔話に出てくるような幻想的な風景に見えた。
「あの塔の上から見えるかな？」ラーンの声はかすれた。
イシェは何も言わずに、ただラーンの肩に手を置いた。二人は互いに背中を預け合い、明日への不安と期待を胸に抱きしめた。