日差しが容赦なくビレーの街を焼きつける午後。ラーンはイシェの眉間に刻まれた皺を見つめてため息をついた。「また遺跡探検か? 今日はいい天気だし、町で酒でも飲みたい気分だが…」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょう。テルヘルが約束してくれた報酬は魅力的ですよ。それに、今日は特別な日です。あの大穴の入り口に近い遺跡に潜れるんですって」イシェはそう言うと、小ぶりな革鞄を肩にかけ、歩き出した。
ラーンは後を追いかけるように立ち上がった。「そうか、あの噂の遺跡か… でも、本当に大穴があるのか? ずっと探しても何も見つからなかったじゃないか…」
テルヘルはビレーの酒場の一角に佇んでいた。彼女の黒い瞳は常に影を宿しており、表情は暗く不気味なほど硬い。「準備はいいか?」と低い声で尋ねると、ラーンの首筋に冷たい視線を向けた。
遺跡の入り口は、深い森の中にひっそりと口を開けていた。薄暗い空気がラーンを包み込み、背筋を凍らせた。イシェは懐中電灯を点け、慎重に道を切り開いていった。
「ここは以前、ヴォルダン軍が侵攻してきた時に戦場になった場所だ」テルヘルは静かに言った。「多くの命が失われた。その怨念が遺跡に宿っているのかもしれない…」
ラーンの心は不安でいっぱいだった。彼はいつも明るい性格だが、この暗く湿った遺跡の中に入ると、いつも以上の重苦しさを覚えた。イシェは冷静に周囲を警戒し、テルヘルは鋭い目で遺跡の壁を調べた。
彼らは深い闇の中に足を踏み入れた。通路は狭く、天井には苔むした石が重なり合っており、まるで巨大な墓のような圧迫感があった。
「ここだ…」テルヘルは突然立ち止まり、壁の一部分を指差した。そこには、かすかに光る模様が刻まれていた。「これはヴォルダン軍の紋章だ… 彼らが何かを隠した可能性が高い」
イシェは懐中電灯の光を紋章に当てた瞬間、壁の一部がゆっくりと沈み込み、奥へ続く通路が現れた。
「大穴への入り口か…」ラーンの胸が高鳴った。しかし、同時に不安な気持ちも大きくなった。この遺跡には何か危険なものが潜んでいるような気がしたのだ。
彼らは慎重に新たな通路を進んだ。すると、通路の先に広がる空間が見えてきた。そこには、無数の宝箱が積み上げられ、宝石や金貨が散乱していた。まさに夢のような光景だった。
「見つけた! 大穴だ!」ラーンの声は興奮で震えていた。イシェも驚きを隠せなかった。しかし、テルヘルは静かに警告した。「まだ油断するな… ここに何かいるかもしれない」
その時、空間の奥から低い唸り声が聞こえた。その音は、獣ではなく、何かの巨大な機械が動く音だった。ラーンの顔色が変わった。
「何かがいる…」イシェの声は震えていた。
影の中から、巨大な機械がゆっくりと現れた。それは、ヴォルダン軍が開発したと言われる古代兵器だった。その目は赤く燃え上がり、周囲を照らし出した。
「逃げろ!」テルヘルが叫んだ瞬間、機械は動き出した。ラーンはイシェの手を引っ張り、必死に逃げ始めた。しかし、機械の動きは速かった。彼らの前を遮り、巨大な腕を振り下ろそうとした。