冷たい夜明け前の風が頬を刺す。まだ薄暗いビレーの街並みを見下ろしながら、ラーンは伸びをした。イシェが用意した粗末な朝食を頬張りながら、「今日はあの西の山麓にある遺跡だな」と告げる。イシェは小さく頷き、地図を広げる。「テルヘルからは今日の目標について詳細な指示がない。いつも通り慎重に進めるのが最善だ」と冷静に分析する。ラーンは「そうだな、でも今回は何かいいものが見つかる気がするぜ!」と拳を握りしめた。
イシェの目だけが一瞬、ラーンの顔からそらされる。「いつもそう言うよ」と小さく呟く。昨夜、テルヘルが口にした言葉が頭から離れなかった。「あの遺跡にはヴォルダンが欲しがっているものがあるらしい。我々はその前にそれを手に入れるのだ」。
テルヘルはいつもより早くビレーを出発していた。目的地の遺跡へ向かう途中で立ち止まり、ラーンとイシェに言った。「今日は私が先導する。二人ともついてくるんだ」と。いつもならラーンの無茶な行動を止めようとするイシェだったが、今回は何も言わずに頷いた。テルヘルの眼差しが冷たく、どこか悲しげに見えたからだ。
日の出と共に遺跡に到着した。入口には崩れた石畳と、奇妙な文様で飾られた石柱が残っていた。テルヘルは鋭い目で周囲を警戒しながら、「ここに入る前に、一つ確認だ」と切り出した。「二人ともヴォルダンについて知っているか?」ラーンは首をかしげ、「あの大国のことか? 何を企んでいるんだ?」と尋ねた。イシェは「大規模な軍事演習を開始したという噂もある。それに、この地域との緊張が高まっていることは確かだ」と答えた。
テルヘルは深く息を吸い、「ヴォルダンはかつて私から全てを奪った。復讐のために、私は彼らに勝つ必要がある。そして、そのために必要なものがあるんだ。あの遺跡には、それが眠っている」と呟いた。ラーンの顔色が変わった。「つまり、遺跡の中にあるものはヴォルダンにとって脅威になるものなのか?」イシェも同様に驚いて、テルヘルの言葉の意味を理解しようと努めた。
「そう、そして我々はその力を手に入れるのだ」とテルヘルは言った。そして、三人は遺跡へと足を踏み入れた。太陽が昇り、その光が崩れた石畳に降り注ぐ。三人はそれぞれの思いを抱きながら、遺跡の奥深くに進んでいく。