ビレーの街はずれの酒場は、まだ薄暗い早朝でも活気に満ちていた。ラーンが豪快に笑うと、イシェは小さくため息をついた。
「またかよ、ラーン。あの話、何度聞いたことやら」
「だってな、イシェ、お前もいつか大穴を掘り当てたいと思ってるだろ?俺たちにはまだ可能性があるんだ!」
ラーンの熱意に、イシェは苦笑するしかなかった。確かに、ビレーの遺跡は数多く眠る宝の山と言われ、かつては輝かしい財宝が発見されたこともあった。だが、そんな話ばかり耳にするうちに、イシェは現実を受け入れていた。
「可能性」よりも「現実」を優先したい。そう思ったイシェは、ラーンの冒険話に付き合うよりも、日々の生活の安定を考え始めていた。
その時、扉が開き、テルヘルが入ってきた。彼女は黒曜石のような瞳で、二人を見据える。
「準備はいいか?今日は特殊な依頼だ」
テルヘルの言葉に、ラーンとイシェは顔を合わせた。二人は互いに頷き合った。今日もまた、遺跡探検の日が始まるのだ。
外に出ると、早春の冷たい風が頬を撫でた。空はまだ薄暗いが、東の地平線にはわずかに光が差し込んでいた。ビレーの街を後にし、三人は遺跡へと向かう。
テルヘルは、今回は少し様子が違うことを告げた。
「今回の遺跡は、ヴォルダンと関係があるらしい。危険な場所かもしれない」
ラーンの顔色が一瞬曇ったが、すぐにいつもの笑顔を取り戻した。
「怖いもんない!俺たちなら大丈夫だ!」
イシェはラーンを心配する気持ちを抑えつつ、テルヘルの言葉に耳を傾けた。ヴォルダンとの関係…一体どんな秘密が眠っているのか。
三人は遺跡へと足を踏み入れる。早春の日差しが、彼らの背後を照らし出す。