「よし、今日はあの崩れかけの塔だな!」
ラーンが目を輝かせ、粗雑な地図を広げた。イシェはため息をつきながら、彼の肩越しに地図を見つめた。
「また遺跡探索か… ラーンの脳みそはいつになったら『大穴』以外の夢を見つけるんだろう」
「おい、イシェ。お前もいつか一緒に大金持ちになるんだろ? あの時みたいに、あの旨みのある肉を山ほど食える日が来るんだ!」
ラーンは過去の栄光を語り出すと止まらない。イシェは苦笑する。あの時、彼らは小さな遺跡で珍しい宝石を見つけたのだ。報酬で手に入れた酒場での贅沢な夜を、ラーンは今も忘れられないらしい。だが、宝石を売った金はすぐに底をつき、二人はまた日々の生活に戻ってしまった。
「あの旨みのある肉… 確かに美味しかったな」
イシェの呟きに、ラーンの顔色が少し曇る。「でも、あれじゃ足りないんだ! 本物の大穴を見つけるまでは…」
その時、背後から涼しい声が響いた。「準備はいいですか?」テルヘルが鋭い目で二人を見つめていた。彼女の表情はいつも冷酷で、何かを企んでいるかのようだ。
「ああ、もちろんだ。テルヘルさん」
ラーンの言葉に、イシェは少し不安を感じた。テルヘルの目的はあくまでヴォルダンへの復讐であり、遺跡探索は手段の一つに過ぎない。彼らの命が何らかの道具として利用される可能性を、イシェは常に意識していた。だが、ラーンにはそんな複雑な感情はなく、ただ大穴を探すという夢だけが目に浮かんでいるようだ。
「よし、行こう!」
ラーンの力強い声が響き渡ると、三人は崩れかけた塔へと向かった。塔の奥深くには、未知なる危険と、もしかしたら旨みのある肉を手に入れるための鍵が眠っているかもしれない。