ラーンが遺跡の入口に立つと、イシェはいつものように眉間にシワを寄せた。「本当にここでいいのか? ラーンの勘なんて当てにならないだろう」
「大丈夫だって! この石碑の刻まれた紋章、どこかで見たことあるんだ!」 ラーンは自信満々に言ったが、イシェには単なる自己満足にしか聞こえなかった。だが、テルヘルが頷くと、イシェは渋々頷いた。
「よし、入ってみよう」
遺跡内部は薄暗く、湿った空気で充満していた。ラーンの持つランプの光が壁に影を落とすたびに、イシェは背筋がぞっとした。彼女はいつも、この遺跡探検中に何かが起こる予感がした。それは単なる直感ではなく、過去の経験から来るものだった。
「ここ…どこかで見たことがあるような…」 イシェは呟いた。するとテルヘルが振り返り、鋭い視線をイシェに向けた。「旧知の場所か?」
イシェは言葉を失った。テルヘルは、自分がヴォルダンに奪われたものを取り戻すために、各地の遺跡を探していることを明かしていない。だが、その目的を隠すために、彼女は常に周囲の様子をよく観察し、何かを感じ取ったら、すぐに反応するのだ。
イシェはテルヘルの言葉を無視して、遺跡内部を観察した。壁には奇妙な模様が刻まれており、天井からは何本もの石柱が伸びている。そして、その奥に、薄暗い光が漏れている場所があった。
「あれを見て」 イシェはラーンを指さした。ラーンの視線が光に向かうと、彼は興奮した声で言った。「宝だ! きっと大穴だ!」
イシェはラーンの言葉を聞いても、冷静さを失わなかった。彼女は、その光が何か不気味な予兆を感じさせたのだ。だが、ラーンがすでに走り出しているのを見て、イシェはため息をつき、テルヘルに視線を向けた。
テルヘルは、イシェの目を見て小さく頷いた。そして、ゆっくりと遺跡の中へと歩みを進めた。その表情には、恐怖ではなく、むしろ執念のようなものが宿っていた。