「おいイシェ、今日はいい感じの気配だろ!」
ラーンの興奮した声と、それに続くイシェのため息が、遺跡の入り口付近に響き渡った。薄暗い空の下、朽ち果てた石造りの門が、まるで巨大な口を開けた獣のように立ちはだかる。
「また大穴だとでも思ったのか?ラーン、そんな甘い夢は見ない方がいい。」
イシェは眉間にしわを寄せながら、錆びついた剣を軽く振る。ラーンの楽観的な性格とは対照的に、彼女は常に最悪の事態を想定していた。特にこの遺跡は、かつてヴォルダン軍が侵攻した際に多くの犠牲者を出した場所だった。イシェの故郷も、その侵攻によって滅ぼされた。
「でもさ、イシェ。いつか必ず大穴が見つかるはずだろ?それに、テルヘルさんが言うように、今回は特別だぞ。この遺跡にはヴォルダンが隠した何かがあるって。」
ラーンの言葉に、イシェは少しだけ心を動かされた。テルヘルは彼らの依頼人であり、ヴォルダンへの復讐を誓う謎の女性だった。彼女はかつてヴォルダン軍に家族を奪われ、今やその復讐のために遺跡探索に力を注いでいる。今回の遺跡は、彼女の調査によってヴォルダンの秘密兵器が隠されている可能性があると判明したのだ。
「よし、わかった。でも、油断はするなよラーン。特に今回は危険だぞ。」
イシェは深く息を吸い、重い扉を押さえた。石の重みに押しつぶされそうな勢いで、扉がゆっくりと開いていく。内部は薄暗く、湿った空気が立ち込めていた。
「よし、行こう!」
ラーンの声が響き渡る中、三人は遺跡へと足を踏み入れた。彼らの前に広がるのは、かつて栄華を誇っていた街の残骸だった。崩れ落ちた壁、朽ち果てた石畳、そして無数の骨が散らばっている。
「ここ…ヴォルダン軍が…」
イシェは言葉を失った。床に散らばる骨は、彼女たちが暮らす村の人々と全く同じ形をしていた。イシェの故郷を滅ぼしたヴォルダンの残虐行為の証が、目の前に広がっていたのだ。
「イシェ、大丈夫か?」
ラーンの優しい声に、イシェはようやく立ち直った。彼女は涙をこらえ、決意を新たにした。
「やれよ、ラーン。俺たちはヴォルダンを倒すんだ。そして、この遺跡から彼にまつわる秘密を明らかにしてやる!」
三人は遺跡の奥へと進んでいった。彼らの前に広がるのは、ヴォルダンの残虐な歴史と、復讐を求める女性の怒り、そして希望を胸に秘めた二人の若者たちの物語だった。