ビレーの朝はいつも早かった。ラーンがイシェを起こす前に、既に太陽は街の上を彩り始める。今日は特に天気が良く、遠くヴォルダンとの国境の山脈まで見渡せる。イシェは小さくため息をついた。「またあの山脈か…。いつになったらこの街を出て、もっと広い世界を見れるんだろう」
ラーンの寝ぼけた声で「大穴が見つかったらすぐにだ！あの山脈を越えた先には、伝説の黄金都市があるって話だろ？」
イシェは苦笑した。ラーンの夢物語に付き合わされるのはもう何回目だろうか。しかし、彼のその楽観的な明るさは、いつもイシェを励ましてくれる。
今日もテルヘルが用意した依頼書を手に、三人組は遺跡へと向かった。今日の遺跡はビレーから少し離れた場所にあり、まだほとんど調査されていないという。テルヘルはいつもより早く到着し、地図を広げて説明していた。「ここは以前、ヴォルダン軍に襲撃された場所だ。遺物だけでなく、敵の残存物も見つかるかもしれない」
イシェはテルヘルの言葉に少し凍りついた。ヴォルダンは彼女にとって忌まわしい存在だ。ラーンが気にせず剣を構えながら「よし！早速探検だ！」と叫ぶ。イシェは彼の後ろ姿を見ながら、複雑な心境になった。
遺跡内部は暗く湿っていた。足元には石畳が敷かれていたが、崩れ落ちていたりする場所もあり、一歩一歩慎重に進む必要があった。ラーンの明るい声だけが響き渡り、イシェの緊張を和らげてくれた。
奥へ進むにつれて、壁に描かれた奇妙な模様が目に入った。イシェは手を伸ばし、指で触れてみた。その瞬間、空気が激しく揺れ、不気味な音が響き渡った。
「これは…！」テルヘルが驚きの声を上げた。「古代の旋律だ！この遺跡には、古代文明の音楽が封じ込められている！」
ラーンは興奮した様子で「古代のメロディーか！きっと大穴につながっているぞ！」と叫んだ。イシェは彼の言葉に少し不安を感じた。古代の旋律…？いったいどんな力を持っているのだろうか？
テルヘルは冷静に「気をつけろ。このメロディーは危険な罠を伴うかもしれない」と警告した。しかし、ラーンの好奇心は抑えきれないようだった。彼は剣を構えながら、遺跡の奥へと進んでいった。イシェは深く息を吸い込み、テルヘルと共に彼の後を追った。
遺跡の中心部には、巨大な石柱がそびえていた。その表面には複雑な模様が刻まれており、まるで音符のように見えた。ラーンは石柱に手を当てると、突然、石柱から美しい旋律が流れ出した。
その音色は、甘く切なく、そしてどこか懐かしい響きを持っていた。イシェは思わず目を閉じ、その旋律に耳を傾けた。すると、彼女の頭の中で、遠い昔の世界の風景が浮かび上がってくるようだった。
ラーンは興奮した様子で「すごい！本当に大穴だ！」と叫んだ。しかし、イシェは何かが amissだと感じた。このメロディー…どこかで聞いたことがあるような…。
その時、石柱から放たれた旋律が激しくなり始めた。同時に、遺跡の壁から光が放たれ、部屋全体を赤く染めていった。
「何だこれは…！？」ラーンは驚きの声を上げた。イシェは恐怖を感じながらも、テルヘルと目を合わせた。何かが起ころうとしている…そして、それは恐ろしいものだと感じた。