「よし、今日はあの崩れた塔だな」。ラーンが地図を広げるとイシェは眉間に皺を寄せた。「また危険な場所かい? あの塔は崩落した箇所が多いって聞いたぞ。念のためにロープはしっかり持って行くんだぞ」。ラーンの豪快な笑い声にイシェの忠告は届きにくかった。「大丈夫だ、イシェ。俺が先頭いくから心配するな!ほら、テルヘルさんもついてきてくれよ!」
テルヘルは小さく頷く。彼女の目はいつも影を宿したように暗く、ラーンとイシェとは違う何かを抱えているようだった。三人はビレーの朝霧がまだ立ち込める中、遺跡へ向かった。崩れた塔は、まるで巨人の骨のように朽ち果て、その内部には危険が潜んでいるような不気味な静けさがあった。
「ここだな」。ラーンが崩れた壁の一角を指差した。イシェは懐中電灯の光を当てると、そこには奇妙な模様が刻まれた石板が埋まっているのが見えた。「これは…」。イシェが声を失った。石板には、古代の文字で何かが書かれているように見えた。
「おい、イシェ、何だその顔?」ラーンの言葉にイシェは我に返り、石板を丁寧に清掃し始めた。「これは…もしかしたら、遺跡の場所を示す地図かもしれない」。イシェの声は震えていた。「こんなところに…」
その時、崩れた天井から石が落ちてきた。ラーンは咄嗟にイシェを守ろうとして転倒した。「ラーン!」イシェが駆け寄ると、ラーンの額からは血が流れ出ている。「大丈夫か?」イシェはラーンの顔を確認すると、彼は意識を失っていた。
「… Damn it…」テルヘルは呟きながら、近くの石柱から長い布を引き剥がした。それは、まるで施しのように丁寧に織りなされた美しい布地だった。テルヘルは布をラーンの傷口に当て、ぎゅっと圧迫する。「これでしばらくは大丈夫だ」。彼女はイシェに言った。「急いで遺跡から出よう」。
イシェは頷き、ラーンを背負って立ち上がった。石板を拾い上げると、三人は崩れゆく塔から脱出した。夕暮れの空の下、ビレーの街灯が遠くに見えた。イシェは、テルヘルの布地を握りしめながら、胸に熱いものを抱いていた。それは、友情なのか、それとも何か別のものなのか…
彼女にはまだ分からなかった。