ラーンの豪快な笑い声がビレーの市場にこだました。イシェは眉をひそめながら、彼の手を掴んで引き戻した。「ちょっと待って、ラーン。あの酒場にはまだ入らないよ。今日はテルヘルとの約束があるでしょ?」
「ああ、そうだった。でもさ、いい香りにつられてつい…」ラーンは肩をすくめた。イシェは彼の視線を追うと、屋台から立ち上る肉汁の香りに思わず唾を呑んだ。「よし、わかった。でも、後で必ず行くからね」とラーンに言い残し、テルヘルが待つ廃墟へ向かった。
廃墟の入り口には、黒ずんだ石碑がひっそりと立っていた。イシェは碑文を指さしてラーンに説明した。「この遺跡はかつて、ヴォルダンの支配下にあったらしい。テルヘルは何か知ってるはずだ」
廃墟の中は薄暗く、埃っぽい空気が漂っていた。テルヘルは石畳の上を歩きながら、鋭い視線で周囲を警戒していた。「今日は特に注意が必要だ」と彼女は言った。「ヴォルダン軍が遺跡調査を行っているという情報が入ってきた。彼らにはまだ我々の存在は知られていないはずだが…」
ラーンが不吉な予感を覚える中、テルヘルは急に立ち止まり、石碑の側面に手を当てた。「ここだ」と彼女は言った。「この碑文には、ヴォルダン軍が隠した地下通路への手がかりが記されている」
イシェは碑文を注意深く読み解いた。複雑な呪文が刻まれており、その中には断食に関する記述もあった。イシェは胸に引いた息をゆっくりと吐き出した。「これは…何か儀式に関連しているのではないか?」
テルヘルは頷いた。「ヴォルダン軍は、古代の力を利用しようとしている。そして、その鍵となるのがこの遺跡にある遺物だ」彼女は剣を抜き、周囲を見渡した。「準備はいいか?地下通路へ降りるぞ!」
ラーンの心臓が激しく鼓動する中、三人は地下通路へと続く石段を降りていった。彼らの前に広がるのは、未知の世界だった。