ビレーの朝はいつも早かった。ラーンが目を覚ますと、イシェがすでに準備を終えていた。今日の遺跡は、街から北へ三日の行程を要する「嘆きの塔」と呼ばれる場所だ。テルヘルからの依頼内容はシンプルだった。「塔の最上階にある遺物を確保し、持ち帰る」。報酬も悪くなかった。
だが、ラーンには何かが引っかかっていた。テルヘルの表情に影を感じたのだ。「ヴォルダンと何か関係があるんだろうな」イシェに呟いた時、彼女は少しだけ頷いた。「あの女は過去を背負っている。そしてその過去は、僕たちを巻き込む危険がある」。ラーンはそう思った。
嘆きの塔は、かつて栄華を誇った文明の遺跡だった。だが今は、崩れかけた石造りの壁と、吹き荒れる風の音が支配する寂れた場所だ。内部へ進むにつれて、空気が重くなり、ラーンの胸を締め付けるような感覚がした。「何かいる…」。イシェの囁きが、ラーンの不安を増幅させた。
塔の上層階では、何かにより歪んだ空間が広がっていた。まるで時空が断絶しているかのようだった。「ここには何か封印されているものがある」。イシェの声は震えていた。そして、その中心に、 pulsing like a heartbeat、巨大な水晶の球体が浮かんでいた。
「あれが遺物か…」ラーンの視線は、水晶球に釘付けになった。その時、地面から黒い影が立ち上がった。それは、まるで生きた闇のような存在だった。テルヘルは剣を抜き、「ヴォルダン…この塔の秘密を手に入れるのは俺たちだ！」と叫んだ。
ラーンとイシェも武器を構える。彼らは、この戦いに巻き込まれたのだ。そして、この戦いが、彼らの運命を断絶するのかもしれないと、ラーンは静かに思った。