ビレーの薄暗い酒場で、ラーンが豪快に笑いを上げていた。「あの遺跡の奥には、宝石が山ほど積んであったって聞いたぞ！ 一攫千金を狙えるチャンスだ！」
イシェは眉をひそめて酒を一口傾けた。「そんな噂、聞いたことないわ。それに、あの遺跡はヴォルダン軍が警戒しているはずよ。無闇に近づいたら大変なことになるわ」
ラーンの笑いは一瞬で消え、顔色が曇った。「ああ、そうだな。ヴォルダン…」
彼らには共有された過去がある。故郷をヴォルダンの軍に焼き尽くされ、家族を失った苦い経験だ。それを思い出す度に、ラーンの胸は怒りに燃える。
「だが、諦めるわけにはいかない。」ラーンは力強く言った。「いつかあのヴォルダンを滅ぼすんだ。そのために、強くなければならない」
イシェはラーンの決意に心を痛めた。彼女はラーンの熱い情熱を理解しつつも、彼の危険な行動にいつも不安を感じていた。
その時、扉が開き、黒衣の女性が店内に現れた。テルヘルだ。鋭い眼光で二人を見つめ、「準備はいいか？ 今日は大物が入手できるかもしれない」と冷たく言った。
ラーンの目は輝きを増した。「よし！ 行くぞイシェ！」
イシェはため息をついた。ラーンと共に危険な遺跡に挑むことになったのだ。だが、彼女は彼を止められるわけでもなかった。
テルヘルが差し出した地図には、ヴォルダン軍の監視下に置かれた遺跡が記されていた。そこには、伝説の遺物「夜明けの石」があると噂されていた。
「あの石が手に入れば…」テルヘルの声は低く、何かを隠しているようだった。イシェは彼女の真意を読み取ることができなかった。
日が暮れ始め、三人はビレーから出発した。彼らの前には、険しい山道と、待ち受ける未知の危険があった。