ラーンが遺跡の入り口で息を切らしている間に、イシェは既に石畳の上を素早く駆け抜けていた。
「おい、待てよ!」
ラーンの叫びも届かない。イシェは薄暗い通路の奥へと消えていった。テルヘルは冷静に地図を広げ、二人が進んだ方向を確認する。
「あの遺跡は複雑だぞ。迷子にならないように」
テルヘルの言葉がラーンの耳に届いた時、彼の顔には焦りと不安の色が浮かんでいた。イシェとは幼馴染で、いつも一緒にいた。だが、この遺跡探索からというもの、イシェはどこか落ち着きがなく、ラーンとの距離も縮まっていく気がした。
「あの…イシェのこと…」
ラーンが言葉を詰まらせると、テルヘルは鋭い視線で彼を見据えた。
「彼女には理由がある。お前には関係ないだろう」
その言葉にラーンの心はさらに締め付けられた。彼はイシェの影を追いかけるようにして奥へと進む。石畳の上には、かすかな足跡が刻まれていた。イシェは一人、深く暗い通路へ進んでいった。
突然、壁から水が噴き出した。ラーンは驚いて後ずさりする。その時、イシェの姿が見えた。彼女は壁に手を当てて何かを調べている。
「イシェ!どうしたんだ?」
ラーンの声に、イシェは顔を上げた。彼女の目はどこか遠くを見つめているようだった。
「ここ…何かを感じた」
イシェの指が壁をなぞるように動いた。そして、壁の一部が沈み込み、奥へと続く通路が現れた。
「これは…」
ラーンの言葉が途絶える。彼ら三人は、未知なる空間へと足を踏み入れた。
その空間は広大で、天井からは奇妙な光が降り注いでいた。中央には巨大な石碑が聳え立っていた。イシェは石碑に近づき、手を伸ばそうとした時、突然の衝撃が彼女を襲った。
「イシェ!」
ラーンが駆け寄ろうとしたその時、地面が揺れ始めた。石碑から発せられた光が激しく点滅し、空気が歪んだ。そして、空間はゆっくりと崩れ始めた。
ラーンとテルヘルは必死に逃げようとする。だが、崩壊する空間は容赦なく彼らを飲み込もうとしていた。イシェの姿が見えない。
「イシェ!」
ラーンの叫びは、崩れゆく空間に消えていった。
そして、全てが静寂に包まれた。