「おいイシェ、あの石像、なんか変だな」。ラーンが眉間に皺を寄せながら、朽ち果てた石造りの巨像を見つめていた。ビレーから少し足を延ばした遺跡だ。いつもより空気が重く、湿り気を感じさせる。
イシェは慎重に足取りを確かめながらラーンに近づく。「確かに、何か...不気味な気配を感じるわね」。彼女の視線も石像に集中している。崩れかけた巨像の顔には、まるで苦しみに歪んだ表情が刻まれているようだった。
「よし、行ってみるか！」ラーンのいつものように豪快な声は、今回は少しだけ震えていた。「もしかしたら大穴、見つかるかもな！」
イシェはため息をつきながらラーンについて行く。石像の足元には、薄暗い廊下が続いている。空気が冷たく、湿った土と金属臭が混じり合った独特の匂いが漂う。
「ここ...何かあった気がする」。テルヘルが不意に言葉を絞り出す。彼女の表情はいつも以上に硬く、鋭い眼光で周囲を警戒している。「この遺跡は...ヴォルダンとも関係があるかもしれない」。
ラーンは困惑した表情を見せる。「ヴォルダン？なんでそんなこと？」
「この遺跡の奥には、ある伝説の遺物が眠っていると...」。テルヘルの目は石像に注がれた。その瞳には、復讐心だけでなく、深い悲しみと怒りが渦巻いているようだった。「散華の秘典」...ヴォルダンが奪った、そして彼女を全て奪ったあの遺物のことだ。
すると突然、廊下の奥から不気味な音が響き渡り、石像の顔が崩れ落ち始めた。石塵が舞い上がり、三人は coughing をしながら後ずさる。石像の中から、何かが這い出してきた。それは...散華した花びらのように、美しいが危険を秘めた黒い影だった。