ラーンが石を蹴飛ばすと、それは砕け散り、埃となって風に舞った。イシェは眉間に皺を寄せながら、遺跡の入り口にある崩れた石柱を見つめていた。「今回は本当に大穴があるって信じるのか？ ラーン。」
「ああ、きっとだ！ この遺跡は他の場所とは違う雰囲気だろ？」ラーンは胸を張った。「ほら、イシェもワクワクしてんじゃん！」
イシェは小さくため息をついた。「ワクワクなんてしていないわ。ただ、テルヘルが提示した報酬が高額すぎるだけよ。何か裏があるんじゃないかと疑ってしまう。」
「そんなことないよ！ テルヘルは本物だ。それに、俺たちにはもう選択肢がないだろ？」ラーンはそう言うと、イシェの肩に手を置いた。「さあ、行こうぜ！」
遺跡の中は薄暗く、埃っぽい空気が立ち込めており、時折、石が崩れ落ちてくる音が響いていた。イシェは慎重に足を踏み出し、ラーンの後ろをついていった。テルヘルは先頭を歩き、鋭い視線で周囲を観察していた。
「ここら辺の遺跡は、かつてヴォルダン軍が占領していたらしい。」テルヘルは言った。「彼らは何かを探していたようだが、何だったのかはわからない。」
「ヴォルダンの兵ども…」ラーンは握りしめた拳を緩めた。「いつか必ず、あの者たちに復讐を果たすんだ！」
イシェはラーンの言葉を聞いて、少しだけ心を痛めた。ラーンには、まだ多くのものを失っていないから、そんなことを言えるのかもしれない。しかし、イシェ自身はすでに全てを失ってしまった。
彼らは遺跡の奥深くへと進んでいった。壁には、何世紀も前に書かれた奇妙な文字が刻まれていた。イシェは、その文字の意味を解読しようと試みたが、なかなか理解することができなかった。
ついに、彼らは遺跡の中心部にたどり着いた。そこには、巨大な石棺が置かれていた。石棺の上には、複雑な模様が彫られており、まるで物語を語りかけているようだった。
「これが大穴か…」ラーンは息を呑んだ。
テルヘルはゆっくりと石棺に近づき、手を伸ばした。「これで、ようやくヴォルダンへの復讐を果たせる。」
その時、石棺の蓋が突然開いた。そこから、黒い煙が立ち上り、部屋中を満たしていった。イシェは咳き込みながら、後ずさった。
「何だこれは…」ラーンは目を丸くした。
煙の中から、黒い影が現れた。それは巨大な怪物で、鋭い爪と牙を持つ恐ろしい姿だった。
「逃げるんだ！」テルヘルが叫んだ。
三人は慌てて遺跡から逃げ出したが、怪物は彼らを追いかけてきた。イシェは振り返ると、ラーンの後ろ姿が見えた。彼は、怪物に立ち向かっていた。
「ラーン！」イシェは叫んだが、声は風でかき消されてしまった。
ラーンの剣が怪物に光を反射し、一瞬だけ輝いた。そして、その光は散り散りになり、闇の中に消えていった。