ビレーの薄暗い酒場で、ラーンが豪快に笑い声を上げていた。イシェは眉間にしわを寄せながら、彼の肩を軽く叩いた。「また大騒ぎしたのか？」
「いや、今日は大穴が見つかる予感がするんだ！」ラーンは目を輝かせた。「あの遺跡の奥深くには、きっと何かが隠されているはずだ！」
イシェはため息をついた。ラーンのその熱意にはいつも振り回されてしまう。だが、彼の瞳に映る光には嘘がない。それは、ビレーの街を離れ、広大な世界へ羽ばたく夢を秘めた、純粋な希望だった。
「よし、今回は僕たちがリーダーだ！」ラーンはテーブルを叩き、立ち上がった。イシェも仕方なく席を立ち、テルヘルが向かってくるのを感じた。彼女の鋭い視線が、二人を貫くように冷たかった。
「準備はいいか？」テルヘルの声は低い。ラーンの熱意には興味がないようだった。「あの遺跡には危険な罠がある。油断するな。」
イシェはテルヘルに頷きながら、ラーンの様子を伺った。彼はいつも通りの笑顔で、テルヘルの警告を軽く受け流しているようだった。だが、イシェは彼の瞳の奥にちらりと見えた不安を感じ取った。
遺跡の入り口には、かつて栄えた文明の残骸が散りばめられていた。朽ち果てた石柱や崩れた壁、そして謎の文字が刻まれた石碑。ラーンは目を輝かせながら、遺跡の中へ足を踏み入れた。イシェは彼を少し離れた場所で慎重に周囲を観察した。
「ここには何かがある…」ラーンの声が響いた。彼は石碑の前に立ち止まり、指で文字に触れた。「この記号…どこかで見たことがあるような…」
イシェはラーンの背後からゆっくりと近づき、石碑の文字を凝視した。確かに、どこかで見たことがあるような気配があった。だが、その記憶はぼんやりとしていて、思い出せない。
その時、地響きがした。壁が崩れ落ち、遺跡の奥深くから影が立ち現れた。ラーンの顔色が青ざめた。「これは…！」
イシェも息を呑んだ。影は巨大な怪物で、鋭い爪と牙を持つ恐ろしい姿をしていた。
「逃げろ！」テルヘルが叫んだ。だが、それはもう遅かった。怪物はラーンへと襲いかかった。
ラーンは剣を抜いて立ち向かった。だが、その力は怪物には通じなかった。イシェは恐怖で体が硬直する中、テルヘルが素早く動き、怪物に攻撃を仕掛けた。
「イシェ、ラーンを連れて逃げろ！」テルヘルの声が響いた。イシェは一瞬躊躇したが、ラーンの顔を見た。彼の瞳は恐怖ではなく、希望に満ちていた。
「行こう！」イシェはラーンの手を引っ張り、遺跡から逃げるように走り出した。 behind them, the roar of the monster echoed through the ruins.