「よし、今回はあの崩れかけた塔だ。地図によると、地下深くには未開の部屋があるらしいぞ」
ラーンが興奮気味に地図を広げた。イシェは眉間にしわを寄せながら地図を睨んだ。
「また大穴の話か。ラーン、あの塔は危険だって聞いたことがある。ヴォルダンの兵士が以前から調査しているという噂もあるぞ」
「そんなこと気にすんな!危険な場所ほど宝に巡り合えるってものだ。それに、テルヘルも興味を示してるんだろ?」
ラーンはテルヘルの方を見やった。彼女はいつも通り無表情だった。
「私の目的は遺跡の探索にある。危険は承知の上だ」
彼女の言葉は冷たかったが、イシェはどこか安心した。テルヘルは自分の目的のためなら手段を選ばないタイプだが、少なくとも嘘をつくことはなかった。
「よし、じゃあ準備だ!イシェ、今回はお前が罠の見極め担当だぞ!」
ラーンの豪快な笑い声が響き渡る中、イシェはため息をついた。いつも通りのパターンだった。ラーンの計画性のない行動に巻き込まれ、結局イシェが危険を回避する役割を担うことになるのだ。
塔への道は険しく、崩れた石や鋭い岩が道を塞いでいた。だがラーンは勢いよく進んでいく。イシェは慎重に足場を選びながら、後をついていった。テルヘルは二人から少し離れた位置を歩き、常に周囲を警戒していた。
塔の中に入ると、薄暗く湿った空気が漂っていた。崩れ落ちた石柱や朽ち果てた家具が散らばり、かつて栄えた場所だったことを伺わせる。ラーンの足音が埃を巻き上げながら、塔の奥へと進んでいった。イシェは警戒しながら、ラーンの後を追いかけた。
「ここだ!地図によるとこの先に部屋があるはずだ」
ラーンが興奮気味に扉を押し開けると、そこには広々とした地下室が広がっていた。壁には奇妙な模様が描かれており、中央には石の祭壇が置かれていた。
「わあ、すごい!これは大発見だな!」
ラーンの目は輝いていた。イシェは祭壇に刻まれた文字をじっと見つめた。何か不気味な予感がした。
その時、壁から突然火炎が噴き出し、イシェは驚いて後ずさりした。ラーンは剣を抜いて構えた。
「誰だ!出てこい!」
影の中から複数の男が現れた。彼らはヴォルダンの兵士だった。
「お前たちとは二度と会わないつもりだったぞ」
テルヘルが低い声で言った。彼女の目は氷のように冷たかった。
ヴォルダン兵士たちはテルヘルを認識すると、驚きの表情を見せた。
「あの女だ!生き残っていたのか!」
「お前は一体何を…」
ラーンの言葉が途切れた。テルヘルの視線が彼に向けられた。
「私の復讐の相手はヴォルダンだけじゃない」
彼女は剣を抜いた。その刃は鋭く、冷酷に光っていた。
「この遺跡には、私が手に入れたいものがある」
イシェは驚愕した。テルヘルがヴォルダン兵士を倒すのは理解できたが、ラーンまで巻き込むとは予想外だった。彼女の目的は何なのか?そして、この遺跡には一体どんな秘密が隠されているのか?イシェの頭の中は混乱していた。