ビレーの薄暗い酒場で、ラーンが豪快に笑い声をあげながら酒を傾けていた。イシェは眉間にしわを寄せて、彼を見つめていた。
「また遺跡探しの話か? いつになったら大穴を見つけるんだ?」
イシェの言葉に、ラーンの笑顔は少しだけ曇った。「いつか必ず見つけるさ! あの古代都市の地図、覚えてるか? あそこにはきっと…」
ラーンは目を輝かせながら語るが、イシェはそんな彼の様子を冷静に見ている。
「地図は偽物かもしれない。テルヘルが言った通り、ヴォルダンが仕組んだ罠の可能性もある」
ラーンの肩を落とした。「そうだな…」
二人は沈黙になった。テーブルの上には、テルヘルからもらった報酬の金貨が並んでいた。イシェはそれをそっと触れた。
「あの女性、何か隠している気がする。ヴォルダンへの復讐、本当にそれだけなのか?」
ラーンの視線が、酒場の奥にある扉に向けられた。「誰が何をしているのか、俺にはわからない」
その時、扉が開き、テルヘルが店内に入った。彼女は鋭い目で二人を見回し、テーブルに近づいてきた。
「準備はいいか? 次の遺跡はヴォルダンとの国境に近い場所だ。危険かもしれないが、そこで何か見つける必要がある」
ラーンの表情が引き締まる。「わかった。俺たちは行く」
イシェはテルヘルの言葉の意味を理解していた。ヴォルダンの動きを抑えるために、遺跡を探検するのだ。それは単なる宝探しではなく、政治的な駆け引きの一部に巻き込まれていることを意味した。
イシェは深くため息をついた。自分たちの運命は、この小さな街から始まる壮大な政略の歯車の一部になるのだろうか?