「おい、イシェ、今日はいい感じの場所を見つけたぞ！」ラーンの声が洞窟内にこだました。イシェは懐中電灯の光を壁に当てながら慎重に足場を確認した。「ラーン、いつも通り先走ってるよ。落ち着いて。」
テルヘルは背後から二人を睨むように見つめていた。「急いでいるのはお前たちだぞ。ヴォルダンとの戦いは時間の問題だ。遺跡の探索が遅れると、我々の計画にも影響が出るだろう。」
イシェはテルヘルの言葉に小さくため息をついた。彼女はラーンの無謀さにいつも手を焼いていたが、テルヘルからのプレッシャーもまた無視できないものだった。ヴォルダンの脅威は、ビレーの人々にとっても現実のものとなっていたのだ。
「よし、わかった。この先は慎重に進むぞ。」イシェがそう言うと、ラーンも少しだけ落ち着きを取り戻した。「よし、俺たちを信じてろ！」ラーンの剣が光り、洞窟の奥へと進んでいった。
遺跡の奥深くで、彼らは巨大な石棺を発見した。棺の上には複雑な文様が刻まれており、その輝きはまるで生きているかのようだった。「これは…！」イシェは息を呑んだ。この文様は、かつてビレーの支配者であった古代王家の紋章ではないか？
「大穴だ！」ラーンの声が興奮気味に響いた。彼はすでに棺の蓋を開けようと手を伸ばしていた。「待て！」テルヘルが彼を押さえつけた。「この場所には何か仕掛けがあるかもしれない。急いで開けるのは危険だ。」
イシェはテルヘルの言葉に同意した。しかし、ラーンは興奮を抑えられず、無理やり棺の蓋を開けようとした。その時、床から激しい光が立ち上り、洞窟全体を包み込んだ。
「何だこれは…！」ラーンの叫び声が風に乗って消えていった。光が収まると、そこには何もなかった。棺も文様も、ラーンも全て消え去っていた。
イシェとテルヘルは互いに顔を見合わせた。政治的な対立やヴォルダンとの戦いは、今この瞬間は二の次だった。彼らの前に広がるのは、未知なる謎と、恐ろしい現実だけだった。