ビレーの薄暗い酒場には、いつもより活気があった。次期執政官選挙を前に、自主独立派と恭順派が街を二分し、激しい議論が交わされていたのだ。ラーンはイシェに、「騒がしいな。俺たちは遺跡を探しに来たんだろ?」と愚痴をこぼした。イシェは苦笑しながら、「そうだな。でも、あの騒ぎの中心にいるテルヘルには関係ないだろう。彼女は自分の目的のために、この街の争いに巻き込まれることはない」と答えた。
テルヘルはいつものように、テーブルの端で静かに酒を飲んでいた。彼女の鋭い視線は、政治的な議論に熱中する人々をよそに、どこか遠くを見つめていた。ラーンとイシェは、彼女が抱える復讐心と、ヴォルダンへの憎悪を知っていた。
「今日は遺跡の調査に行くぞ」とラーンが声をかけると、テルヘルはゆっくりと立ち上がった。「準備はいいか?」と冷たい声で尋ねた。イシェは小さく頷くと、ラーンの後ろに立って、彼をサポートする準備をした。
遺跡へと続く道は険しく、危険が潜んでいることを彼らは知っていた。しかし、そこには未知の財宝や、歴史の謎が眠っている可能性もある。ラーンは、いつか大穴を掘り当てて、ビレーの人々を救いたいと願っていた。イシェは、そんな彼の夢を信じながらも、現実的な目で現状を見つめていた。
テルヘルは、遺跡の奥深くへと続く通路を慎重に進んでいった。彼女の目的は、遺跡の宝ではない。それは、ヴォルダンとの戦いに必要な情報だった。彼女は、過去の出来事から教訓を得ており、単なる武力ではヴォルダンを倒すことはできないと悟っていた。
「改革が必要だ」
テルヘルはそう呟いた。ビレーの人々が、自分たちの未来のために立ち上がる必要がある。そして、そのために必要なのは、知識と情報だった。
遺跡の奥深くで、ラーンとイシェが危険な罠をかわしながら進もうとする中、テルヘルは静かに歴史の歯車を回し始めた。