「おいラーン、あの石碑の刻印、よく見ろよ。」イシェが指差した方向には、崩れかけた石造りの壁に、奇妙な記号が刻まれていた。ラーンは眉をひそめた。「なんだ、ただの模様みてえだが?」
「いや、違う。この記号…どこかで見たことがある」イシェは石碑の刻印をスケッチブックに写し取りながら呟いた。「以前、ヴォルダン辺境の遺跡で似たようなものを…」
ラーンの顔色が変わった。「ヴォルダンか…あの辺りは危険だぞ。テルヘルが何かの資料を探しているって言うけど、まさか…」
イシェは頷きながらスケッチを続けた。「この記号群、古代ヴォルダンの王家の紋章と酷似しているんだ。もしこれが本当なら…」
その時、背後から声がした。「見つけたぞ!」テルヘルが駆け寄ってきた。「あの石碑の下に何かあるようだ。掘り起こすぞ!」彼女は興奮気味に剣を抜き、石碑に向かって斬りかかった。ラーンはイシェの顔を見つめた。「ちょっと待てよ、テルヘル!その紋章…もしかしたらヴォルダン王家の…」
しかしテルヘルの剣はすでに石碑を貫き、崩れ落ちる壁の下から何かが露出した。それは古代ヴォルダンの王冠ではなく、奇妙な金属製の球体だった。球体からは淡い光が放たれ、その光に照らされたテルヘルの表情は狂気を帯びていた。「これで…全てが変わる…」彼女は呟きながら球体を手に取った瞬間、その光が彼女を包み込んだ。
「テルヘル!」ラーンとイシェが駆け寄ろうとしたその時、球体から放たれた光は二人を突き飛ばし、意識を失わせた。目を覚ますと、そこは広大な洞窟だった。壁には古代ヴォルダンの文字で書かれた文書がびっしり書き込まれており、テルヘルの姿はどこにもなかった。イシェはラーンに言った。「あの球体…何かを改竄していたのかもしれない…」