ビレーの朝焼けは、いつもより薄暗く、空気が重く感じられた。ラーンは、イシェが淹れてくれた薄暗い茶を一口飲み干しながら、今日の遺跡探検について話していた。
「あの洞窟系、テルヘルが言うには、奥に何かあるらしいぞ。俺たちにはまだ触れたことのないような貴重な遺物があるって」
イシェは眉間に皺を寄せながら、ラーンの言葉を遮った。「またそんな噂話か? そんな大物を探すなら、もっと計画的に準備すべきだ。あの洞窟は崩落の危険もあると聞いたぞ」。
「大丈夫だ、大丈夫。俺が行くから」ラーンは自信満々に笑いかけたが、イシェは彼の瞳の中に不安を感じ取った。最近、ラーンの行動にはどこか落ち着きのなさがあるように思えたのだ。まるで、何かを急いでいるかのように。
テルヘルはいつも通り、影のある場所に身を隠しながら、3人を観察していた。彼女の鋭い視線は、ラーンの不穏な動きを逃さなかった。彼女は彼らが遺跡に潜る目的を理解していた。それは単なる財宝を求めるためではない。ラーンには、過去の傷が深く刻まれていたのだ。
「準備はいいか?」テルヘルは低い声で尋ねた。ラーンとイシェは互いに頷き合った。3人は遺跡へと向かった。洞窟の入り口は、まるで巨大な口のように開いており、内部からは冷たい風が吹き出してくる。
彼らは慎重に足を踏み入れた。壁には、かつての文明の名残がかすかに刻まれていた。しかし、そこには摩耗した石造りの壁や崩れかけた通路が、遺跡の栄華を物語るよりも、時間の流れと崩壊の残酷さを雄弁に語っていた。
ラーンは、まるで本能的に洞窟の奥へと進んでいった。イシェは彼の背後についていくが、不安な気持ちを抑えきれずにいた。テルヘルは2人をじっと見つめながら、彼女自身の目的を胸に秘めていた。
彼らは長い階段を降り、深い地下へと続く通路に進んだ。
「ここは… 」イシェは言葉を失った。目の前には、広大な地下空間が広がっていた。天井からは鍾乳石が垂れ下がっている。そして、その中心には、巨大な石棺が鎮座していた。
ラーンの目は輝いていた。「ついに… 見つけたぞ!」
しかし、イシェは何かを察知した。石棺の表面には、奇妙な模様が刻まれており、そこからは不吉な気が漂っていた。
「ラーン、待て! 」イシェが叫んだ瞬間、石棺の上から黒煙が噴き出した。そして、その煙の中に隠された影が、ラーンに向かって襲いかかる。