ビレーの薄暗い酒場で、ラーンが豪快に笑った。「またしても空っぽか!イシェ、お前も見てみろよ、この宝箱!」
イシェはため息をつきながら、ラーンの指差す方向を見た。錆びついた宝箱の中には、ただの石と埃が入っていた。
「またか」
イシェの言葉にラーンは不機嫌な顔をした。「おいおい、イシェ、そんなこと言わずに。いつか必ず大穴を掘り当てられるさ!あの遺跡には何かあるって気がするんだ!」
ラーンの目は輝いていたが、イシェは彼の熱意に冷ややかな視線を向けた。彼女はビレーで育った。遺跡の危険を知り尽くしている。あの遺跡は、何年も前に崩落したと伝えられていた。
「大穴」を夢見ているラーンは、そんな現実を理解しない。イシェは彼を見つめ、小さくため息をついた。
その時、扉が開き、テルヘルが入ってきた。黒曜石のように輝く瞳が、部屋中を鋭く見渡した。
「準備はいいか?」
テルヘルの声は冷たかった。ラーンとイシェは互いに視線を交わし、頷いた。
遺跡へ向かう道は険しかった。岩肌が崩れ落ち、獣の咆哮がこだましてくる。
「ここは本当に安全なのか?」イシェが不安そうに尋ねた。
「大丈夫だ」ラーンの答えは自信に満ちていたが、イシェは彼の言葉に頼りなかった。
遺跡内部は薄暗く、湿った空気が漂っていた。「何かあったらすぐに知らせてくれ」テルヘルが言った。
ラーンとイシェは頷き、慎重に歩を進めた。
壁には奇妙な模様が刻まれており、床には古びた骨が散らばっていた。ここはかつて何があったのか。イシェは不安を抑えきれず、背筋をぞっとさせた。
「ここだ」テルヘルが言った。彼女は壁の奥にある小さな穴を指さした。
ラーンは興奮した様子で近づき、石をこじ開けた。「よし、見つけたぞ!」彼は叫んだ。
しかし、そこにあったのはただの空洞だった。イシェは落胆した。
「またか…」
その時、地面が激しく揺れた。壁から埃が舞い上がり、天井から石が崩れ落ちた。
「何だこれは!」ラーンが驚いて叫んだ。
「逃げろ!」テルヘルが叫びながら、3人を引っ張った。
崩落が始まった。
イシェは振り返ると、遺跡の奥深くで何かが輝いていることに気づいた。それはまるで…揺籃のように、生命を宿すかのような光だった。
だが、その時、彼女はラーンの叫び声を聞いた。「イシェ!」
イシェは振り返った瞬間、崩落に巻き込まれてしまった。