ビレーの薄暗い酒場には、いつもより活気がなかった。ラーンの豪快な笑い声も、イシェの冷静な分析も届かないほどに。テーブルの上には、冷めた酒と食べかけのパンが残されていた。
「あの遺跡で何があったんだ?」イシェは呟いた。ラーンの顔色は悪く、目が真っ赤だった。いつもなら、危険を乗り越えた後の興奮で目を輝かせているはずのものだ。
ラーンは深く息を吸い込み、テーブルに拳を叩きつけた。「あの遺物…俺が触れた瞬間、何かが起きたんだ。光が…まるで、俺の頭の中を駆け巡ったような感覚だった。」
イシェは眉間に皺を寄せた。「何か変なものが見えたのか?」
「いや…」ラーンは言葉を濁した。「でも、その後からずっと気持ちが悪いんだ。まるで、何かが俺の中にいるような…」
その時、 tavern の入り口が開き、テルヘルが入ってきた。黒曜石のような瞳が、ラーンとイシェを鋭く見据えた。
「どうだ?」彼女は冷たく尋ねた。「遺跡からの収穫は?」
ラーンの視線はテルヘルの顔から逸れた。「何も…」
テルヘルは眉をひそめた。「何があったのか、教えて欲しい。」
ラーンはためらいながら、あの日の出来事を語った。光、感覚、そして今も続く不気味な感覚。テルヘルは話を聞き終えると、長い沈黙の後で言った。
「興味深い…」と、彼女は呟いた。「あの遺跡には何か特別な力があるのかもしれない。もしかしたら…」
彼女の言葉は途絶えたが、ラーンの心には冷たい風が吹いた。「あの光」の正体、そしてラーンの中に潜む何か。それらが、彼らをどこへ導くのだろうか?
イシェはテルヘルの言葉を注意深く聞いていた。彼女はラーンの様子を伺いながら、あることに気が付いた。それは、ラーンの話に僅かに矛盾があったことだ。
「あの光」についての説明が曖昧で、ラーンの顔色が悪くなるタイミングと、語られる内容の繋がりには不自然な点があった。まるで、何かを隠しているかのように。
イシェはラーンの目をじっと見つめた。彼の瞳は、どこか不安げに輝いていた。「ラーン…」
イシェは言葉を飲み込んだ。今、ラーンを責めるべきではない。彼が隠しているもの、そしてそれが彼らをどこへ導くのか。それは、まだ明らかになっていない。だが、イシェは確信した。この出来事は、彼らの人生における大きな「接合点」になるだろうと。