ラーンが石の破片を蹴飛ばすと、イシェが眉間にしわを寄せた。「また無駄なエネルギーを使うな。あの程度で遺跡の秘密が解けると思ったら間違いだぞ」。
「そうかな？ いつのまにか大穴が見つかるかもよ」とラーンは笑いかけたが、イシェは彼の背中に影が伸びるのをじっと見ていた。テルヘルとの契約以降、ラーンの目は輝きを増していた。だがイシェには、その輝きは危険な光に思えた。
彼らはヴォルダンから逃れてきた難民たちの住む廃墟を調査していた。かつて栄華を誇った街の今は、崩れかけた石造りの建物が風雨にさらされ、草木が生い茂り、静寂だけが支配している。遺跡探しの仕事は危険だが、それ以上にヴォルダンとの関係を隠す必要がある。
「何か見つけた？」
イシェが声をかけると、ラーンの視線は遠くの崩れかけた塔に向いていた。その壁にはかすかに、剣で削ったような傷跡が残っていた。「あの塔だ。何か感じる」とラーンは言った。
テルヘルは地図を広げながら、「古い記録によると、この塔はかつてヴォルダン王の宮殿の一部だったらしい。内部には王家の宝物庫があったという噂もある」と説明した。
イシェはラーンの様子に不安を感じた。「王家の宝物庫？そんな危険な場所に入る必要はないだろう？」
だがラーンの決意は固かった。「あの傷跡は、ヴォルダン王が何かを隠した証拠だ。大穴が見つかるかもしれない。あの宝物を手に入れれば、俺たちは自由になれる」
イシェはため息をついた。ラーンの言葉は希望に満ちているように聞こえたが、イシェにはどこか掠れた音色が響き渡るように感じられた。
彼らは塔の入り口へと向かう。崩れかけた石畳の上を歩くと、ラーンの足音がかすかに響き、イシェは振り返らずとも彼の背中に影が伸びているのを感じた。その影は、彼を闇に引きずり込むかのように長く、重く伸びていた。