ビレーの朝は、いつもより早く始まった。ラーンが寝ぼけながら目を覚ますと、イシェが既に準備を整えていた。
「今日はテルヘルが急いでいるみたいだ。いつもの遺跡じゃないらしいぞ」
イシェは、テーブルに置かれた粗末なパンを指差した。「ヴォルダンに近い場所だと聞いた」
ラーンの表情が曇った。「あの辺りは危険だぞ。何かあったら命を落とすかもしれない」
「だが、報酬がいいんだって」イシェは冷静に言った。「それに、テルヘルには理由があるはずだ。私たちは彼女を信じるしかない」
ラーンはため息をつきながら立ち上がった。彼らの生活は、遺跡探索で得たわずかな報酬と、テルヘルの依頼で得られる高額な報酬の二本柱だった。テルヘルがヴォルダンに復讐するために行動していることは、彼らも知っていた。
三人はビレーを出発し、険しい山道を登り始めた。道中、イシェはラーンに耳打ちした。「あの遺跡は、以前、ヴォルダンの兵士たちが何かを探しに来たと聞いたことがある」
ラーンの顔色が変わった。「まさか…?」
「誰にも言わないで」イシェは真剣な眼差しをラーンに向けた。「テルヘルが何をしているのか、まだわからない。だが、何か大きな計画があるに違いない」
遺跡の入り口に着くと、テルヘルが待っていた。彼女はいつもより表情が硬く、視線は鋭い。
「準備はいいか?」テルヘルは尋ねた。「今回は危険だ。掟を破る覚悟があるのか?」
ラーンとイシェは顔を見合わせた。彼らは、テルヘルの言葉の意味を理解していた。遺跡の中に眠るものは、ヴォルダンにとって禁断のものなのかもしれない。そして、それを手に入れるためには、何よりも大切なものを犠牲にする必要があるのかもしれない。
三人は、遺跡の奥へと足を踏み入れた。彼らの背後には、厳しい掟が影のように迫っていた。