「おいラーン、あの石碑、何か刻まれてないか?」イシェが薄暗い遺跡の奥深くから声をかけた。ラーンは背の高い柱に寄りかかり、疲れ切った様子で首を横に振った。「何にも書いてねえよ。またイシェの勘違いか?」イシェはため息をつきながら、石碑の表面を指でなぞり始めた。「いや、違うと思うんだ…何か、感じるものがあるんだよ…」
その時、石碑に刻まれた模様がかすかに光り始めた。ラーンとイシェは目を丸くして見つめる。光は徐々に強くなり、やがて石碑全体を包み込むように輝き、遺跡の奥底から不気味な音が響き渡った。石碑の上部が開き、そこから黒い煙のようなものが立ち上ってきた。煙は渦巻き状に広がり、まるで生きているかのように空気を捕食するように吸い込んでいった。
ラーンとイシェは恐怖で言葉を失った。テルヘルだけは冷静さを保ち、剣を構えながら煙の動きを警戒していた。「何だこれは…!」ラーンの声が震えた。煙が彼らを包み込む寸前、テルヘルが石碑に刻まれた奇妙な文字を唱えた。「静まれ!汝の欲望は満たされぬまま永遠に沈黙せよ!」
煙は一瞬静止し、テルヘルの言葉に従うかのように収束した。そして、ゆっくりと石碑に戻っていった。しかし、その後の遺跡は以前とは全く異なる空気に包まれていた。何かが変わったのだという予感が、ラーンとイシェの心を冷やした。