ラーンが石の壁を蹴り飛ばした時、埃が舞い上がり、空気が一瞬ざわついた。深い闇の中、イシェの小さなランプの火が、不規則に揺らぎながら、壁面に影を落とした。
「ここだな。」テルヘルが言った。彼女の目は、薄暗い空間を鋭く見据えていた。「遺跡の地図には記されていなかった場所だ。何かあるはずだ。」
ラーンは眉間に皺を寄せた。「何だかわからんけど、不気味な感じがするぜ。」
イシェは小さく頷いた。「確かに。何かが…振動しているような気がする。」
テルヘルは静かに剣を抜いた。「気配を感じているのかもしれない。警戒しろ。」
その時、地面に微かな振動が走った。ラーンの足元から始まり、徐々に広がり、やがて壁にも床にも伝わるようになった。イシェは息を呑んだ。「あの振動…何か大きいものだ!」
「何だ!?」ラーンが叫ぶと同時に、壁の奥深くから轟音が響き渡った。石塵が吹き上がり、三人は反射的に身を伏せた。
「これは…!」テルヘルは驚愕した表情で言った。「遺跡の奥に眠っていた何かが…目覚めてしまったようだ。」
振動はますます激しくなり、床が大きく揺れた。天井から小石が崩れ落ち、ラーンの頭上に直撃した。イシェは恐怖で体が震えた。
「逃げろ!」テルヘルが叫んだ。「今すぐこの場を離れろ!」
三人は立ち上がり、出口へと走り出した。しかし、振動はさらに激しさを増し、遺跡全体が崩壊寸前だった。ラーンの足元が崩れ、彼はバランスを崩した。
「ラーン!」イシェの声が響いた。彼女はラーンに手を差し伸べたが、その瞬間、巨大な影が彼らを覆った。壁の一部が崩れ落ち、ラーンは深い闇の中に飲み込まれていった。
イシェとテルヘルは絶望的な表情で、崩れゆく遺跡を見つめた。振動がやがて止まった時、静寂だけがそこに広がっていた。