ラーンの粗雑な剣の扱いにイシェが眉をひそめた。遺跡の奥深くへと続く狭い通路では、ラーンの動き一つが埃を巻き上げ、イシェの視界を遮る。
「もう少し慎重にしろ、ラーン。あの石碑には触れないで」
イシェの注意も虚しく、ラーンはすでに石碑に手を伸ばしていた。彼の指先は、まるで巨大な岩肌を撫でるように石碑をなぞり、表面の苔や塵を払いのけた。
「どうだ?何か書いてあるか?」
イシェが近づき、石碑に刻まれた文字列をじっと見つめた。複雑な文様と記号が組み合わさっており、彼女には理解できない。ラーンの指先が再び動き、石碑の側面にある凹みをなぞり始めた。
「これは…何か仕掛けか?」
イシェは不安げに言った。ラーンは意に介さず、指先で凹みを押し込んだ。すると石碑全体がわずかに震え、壁面の一部がスライドした。
その隙間から差し込む光に、イシェは息を呑んだ。そこには金色の宝箱が置かれていた。
「やった!大穴だ!」
ラーンの叫び声が通路にこだました。興奮気味に宝箱を開けようと手を伸ばすラーンを、イシェは引き止めた。
「待て!罠かもしれない」
しかし、ラーンの耳には届かなかった。彼はすでに指先で宝箱の錠をこじ開けようとしていた。その瞬間、床から鋭い棘が伸び上がり、ラーンの足を貫く。
ラーンは悲鳴を上げながらよろめき、イシェに助けを求めるように手を伸ばした。しかし、イシェは動かなかった。彼女の視線は、ラーンの指先からゆっくりと滴り落ちる血に向けられていた。その鮮やかな赤が、遺跡の薄暗い空間を不気味な輝きで満たしていた。