「よし、準備はいいか?」
ラーンの豪快な声がビレーの薄暗い路地裏に響き渡った。イシェは肩越しに彼を見つめ、いつものようにため息をついた。
「あの遺跡は危険だと聞いたぞ。本当に行く必要があるのか?」
「大丈夫だ!あの遺跡には必ず何かある。大穴だ!」
ラーンの目は輝いていて、イシェの心配を押し殺すように眩しかった。テルヘルが提示した報酬も魅力的だったが、イシェはラーンの無謀さにいつもハラハラさせられる。
「それに、テルヘルさんも頼んでるんだろ?あの人の言うことなら間違いないだろう」
イシェはそう言い聞かせた。テルヘルはどこか謎めいた女だが、彼女には不思議なカリスマ性があった。ヴォルダンへの復讐を誓うという彼女の過去も興味深かった。
遺跡の入り口に差し掛かる時、イシェは背筋がゾッとした。そこは、かつて何者かが拘留されていた痕跡が残る場所だった。冷たい風だけが吹き抜けていて、不気味な静けさが広がっていた。
「ここは…何かあったのか?」
ラーンの問いかけにイシェは首を振った。しかし、その言葉を口にすることすら躊躇するような、重苦しい空気が彼女を包み込んだ。
遺跡内部は暗く、湿った石造りの通路が続くだけだった。テルヘルが用意したランプの光だけが、わずかに道を照らしている。ラーンは先頭を歩き、イシェとテルヘルが後を追う。
突然、ラーンの足音が止まった。
「なんだ?」
イシェが尋ねると、ラーンの顔が硬く歪んでいた。
「何かいる…」
彼の視線は通路の奥にある扉に向いていた。扉には奇妙な模様が刻まれており、不気味なオーラを放っていた。
その時、扉がゆっくりと開いた。中から黒い影がゆっくりと現れ始めた。イシェは恐怖で言葉を失った。ラーンは剣を抜いて構え、テルヘルは冷静に状況を分析していた。
「これは…拘留されていた存在だ…」
テルヘルの言葉は重く響き、イシェの心は氷のように冷たくなった。彼らは一体どんな危険と対峙するのか?そして、この遺跡にはどんな秘密が隠されているのか?