「よし、今回はあの崩れかけた塔だ。噂では地下に何かあるらしいぞ」
ラーンが目を輝かせながら地図を広げた。イシェは眉間にしわを寄せた。「またそんな危険な場所？ 以前も言っただろう。安全な遺跡を選んだ方がいいんじゃないか？」
「いや、イシェ。大穴を見つけるにはリスクを冒す必要があるんだ！」ラーンの豪快な笑い声はビレーの狭い路地裏に響き渡った。イシェはため息をつきながら、テルヘルの方を見た。「どうするつもり？ あなたもあの塔に行くのか？」
テルヘルは静かに頷いた。「情報によれば、その塔にはヴォルダンがかつて隠した遺物があるという。私の目的には不可欠だ」彼女の目は冷たい炎を燃やしているようだった。
ラーンとイシェは互いに顔を見合わせた。彼らはテルヘルの目的を知らないまま、彼女に雇われて遺跡探索をしていた。ただ、彼女が持つ強い意志と冷酷な一面から、何か大きな秘密を抱えていることは感じていた。
「よし、準備をしよう」ラーンは剣を手に取った。「イシェ、今回は念の為、あの魔道士の呪文を調べておくんだぞ。あの塔は何か不気味なものを感じさせる」
イシェは頷きながら、小さな袋から古い書物を持ち出した。それはかつてビレーに伝わる魔導士が書き残した呪文集だった。その中には、遺跡の罠を解くための呪文や、危険な魔物に対抗するための防御呪文も記されていた。
三人は塔へと向かった。崩れかけた石造りの階段を登るにつれて、不気味な風が吹き荒れ、奇妙な音が耳をつんざくようになった。
塔の中は薄暗く、埃が積もり、蜘蛛の巣が張り巡らされている。壁には呪文が書かれた石板が埋め込まれていたが、ほとんどが損傷し、解読不可能だった。
「ここが地下への入り口だ」
ラーンが床にある石の扉を指さした。扉の上には複雑な紋様が刻まれており、魔力を必要とする仕掛けだとイシェは判断した。
「この紋様は…！」イシェは書物を開き、急いで呪文を探し始めた。「これだ！ この呪文を唱えれば扉が開くはずだ」
イシェが呪文を唱えると、石の扉に刻まれた紋様が光り輝き、ゆっくりと開いていった。その奥には、暗い階段が続いているのが見えた。
「よし、行こう！」ラーンは先陣を切って階段を降り始めた。イシェもテルヘルも後を追う。
階段を降り終えると、広大な地下空間が広がっていた。そこには、巨大な石棺が置かれており、その周りに様々な遺物が散らばっていた。
「これは…！」ラーンの目は輝き、興奮を抑えきれなかった。「大穴だ！ ここに大穴がある！」
彼は石棺に駆け寄り、蓋を開けようとした瞬間、床から鋭い光が放たれ、ラーンを吹き飛ばした。
イシェは驚いてラーンに駆け寄ると、彼の腕に深い傷跡が見えた。
「ラーン！ 大丈夫か？」
ラーンは苦しみながら立ち上がった。「くそ… 罠だったのか…」
その時、テルヘルが石棺の傍らに置かれた小さな箱に手を伸ばした。箱には、複雑な錠が取り付けられており、テルヘルは小さな鍵を取り出して差し込んだ。
「これは…！」イシェは驚いて声を上げた。「この鍵は、ヴォルダンが所有していた伝説の鍵だ！ 何故…」
テルヘルは鍵を回すと、箱が開き、中から小さな水晶の球を取り出した。
「これでヴォルダンとの決着をつける時が来た」
彼女は水晶球を手に取り、ラーンの目を見つめた。
「この水晶球には、ヴォルダンの魂の一部が封じ込められている。それを利用すれば、彼を完全に滅ぼすことができる。だが…」
テルヘルは少し間を置き、ラーンに言った。
「この水晶球を起動するには、あなたの命が必要だ」