ラーンの大雑把な指示に従い、イシェが慎重に石畳を踏んで進んだ。ビレーの遺跡はいつもと様子が違う。埃っぽい空気の中に、金属的な臭いが混じる。
「何かあったのかな？」イシェは不安げに呟いた。
ラーンは鼻を鳴らして、「そんなことより、テルヘルは何を企んでるんだろうな」と呟いた。「あの女、今回は妙に熱心だぞ。」
彼らはテルヘルの依頼で、最近発見された遺跡の奥深くへ潜入していた。いつもより報酬が良い上に、テルヘルが遺跡の調査記録を共有してくれるという条件だった。
「大穴」を見つけるために、とラーンは言っていたが、イシェはそうは思えなかった。テルヘルは何か別の目的を持っている。それは彼女の冷たい目つきから読み取れた。
遺跡の奥深くでは、壁に幾つもの奇妙な記号が刻まれていた。イシェはそれらを丁寧にスケッチブックに描き写していく。彼女は遺跡学に興味があり、この機会を逃さなかった。
「おい、イシェ！こっち見てみろ！」ラーンの声が響き渡った。彼は石の扉の前で、興奮気味に叫んでいた。扉には複雑な模様が刻まれており、イシェは見たことのないものだった。
「これは…。」イシェは息をのんだ。「古代ヴォルダン帝国の紋章だ！」
「ヴォルダン？」ラーンは眉をひそめた。「なんでこんなところに？」
扉の隙間から、金色の光が漏れていた。その奥には、何かが眠っているように見えた。
その時、背後から低い声が聞こえた。「待て。」
振り返ると、テルヘルが立っていた。彼女は剣を抜き、鋭い目を向けていた。
「ここには触るな。危険だ。」
ラーンの顔色が変わった。「何言ってんだ？ここは俺たちの獲物だぞ！」
テルヘルはゆっくりと歩み寄り、ラーンの前に立った。「いいか、ラーン。この遺跡はヴォルダン帝国の秘密兵器を隠している。お前たちは巻き込まれるべきではない。」
イシェはテルヘルの言葉に戸惑いを感じた。秘密兵器？それはどういう意味なのか？
「秘密兵器？」ラーンは不機嫌そうに言った。「そんなものに俺たちが興味があるわけないだろ！金と宝が欲しいんだ！」
テルヘルはため息をつき、剣を構えた。「わかった。そうするしかないようだ。」
その時、扉が突然開いた。中から黒い影が飛び出して、ラーンに向かって襲いかかった。
イシェは驚いて叫んだ。「ラーン！」
ラーンの剣と影の刃が激しくぶつかり合った。激しい戦いが始まった。イシェは混乱しながらも、テルヘルの動きを注視していた。彼女は何を知っているのか？
「逃げろ、イシェ！」テルヘルは叫んだ。「この遺跡は危険だ！俺たちだけで解決できる問題じゃない！」
イシェは迷わずに立ち去った。彼女はラーンの命を懸けた戦いを後ろから見ていられなかった。そして、どこかで抜け荷のように、真実が隠されていることを悟った。