ビレーの朝の喧騒を背に、ラーンはイシェの制止を振り切って遺跡へと駆け込んだ。いつも通りの大穴探しだ。だが、今日は何かが違う。空気が重く、静まり返っている。
「イシェ、なんか変だな…」
ラーンの不安を察したかのように、テルヘルが鋭い目で周囲を見回す。「準備はいいな？」と尋ねると、イシェは小さく頷いた。
遺跡の入り口は、まるで獣の口を開けたようだった。内部は薄暗く、湿った冷気が肌にまとわりつく。ラーンが先頭を切り、テルヘルが後方から見張るように進む。イシェは二人を繋ぐように歩を進める。
深い闇の中、かすかに光るものが見えた。それは、まるで古代の文字が刻まれた石碑だった。テルヘルが近づき、指で文字をなぞりながら呟いた。「これは…？」
その時、石碑から奇妙な音が響き渡った。まるで、石が砕けるような音だ。ラーンは本能的に剣を抜く。イシェは後ろに下がる。石碑の表面には、青白い光が脈打つように広がっていった。
「これは…抗体か？」テルヘルは目を細めながら言った。「この遺跡から発せられるエネルギー…ヴォルダンが狙っているものだ」
突然、石碑から巨大な影が立ち上がった。それは、まるで生きた石のように、不気味に動き出す。ラーンとイシェは息を呑んだ。テルヘルは冷静に剣を抜いた。
「逃げろ！」
ラーンの叫びが空中に響き渡る。だが、もう遅い。影は彼らを包み込み、石碑の光と共に消えていった。